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第38話
あれからまた数十分、結は俺に抱きついたまま眠ってしまっていた。
本当にこいつはどうしたんだろうか。
俺じゃ駄目って事なのか?
そりゃ、母親や父親からの愛情に勝てるものが無いことは俺は嫌と言う程知っている。
でも俺は俺なりに、こいつの幸せを考えて考えて考えて・・・なのに何が駄目なんだろうか。
俺だったらこいつにこんな体に消えない跡を残すようなことなんてしない。
こいつの心に消えない傷なんてつけたりしない。
そんなもの俺が今からでも消し去ってやりたい。
こいつを俺の全てで幸せにしてやりたい・・・
それじゃ駄目なのか・・・?
俺にできることなら何だってしてやるから、首ばっかり振ってないで何か言ってくれよ。
文句だっていい。愚痴だっていい。不満だっていい。俺がなんとかしてやるから。
そう思いながら俺は結を壊してしまうんじゃないか、と思うほどの力で抱きしめてしまっていた。
気づいて慌てて力を抜くが何だか離してやる気にならなかった。
ずっとこうしていたいと思ってしまう。
そんな時、
プルルルル・・・プルルルル・・・
俺のスマホが鳴った。
こんな時間に誰だ?と思い俺はズボンのポケットからスマホを取り出した。
画面を見ると組長から。
何か仕事だろうか。いや、仕事だったら組長ではなく中野からかかってくるはずだ。
何だか分からないまま俺はとりあえず出た。
「もしもし、あかです」
『分かってる。お前にかけたんだからな』
組長は軽く笑って言った。
そりゃそうか、なんて思って俺も笑ってしまった。
「何かありましたか?」
『・・・まあ、お前と話したかっただけだ。お前は俺の息子だからな。あの頃のように敬語なんてやめて話そう』
「・・・分かった。なんか、久しぶりで緊張すんな・・・」
『俺はいつだってお前の敬語に慣れないがな』
組長・・・親父はまた楽しそうに笑った。
昔は俺も組長のことを親父と言って、本当の父親のように懐いていた。
父親とはまた違うかもしれなかったが、俺にとってはただ一人の家族だった。
「親父・・・」
『おお、お前に久しぶりに呼ばれると嬉しいな。お前もう敬語もやめて親父ってまた呼べばいい。俺はそっちの方が嬉しいからな。で、なんだ?』
「親父は、俺を拾ったときなんて思ってた?」
『・・・なんだろうな・・・ただ、お前にはちゃんと親の愛情を知ってもらいたくて俺なりに頑張っていたのは覚えているよ。お前もなかなか心を開いてくれないものだから困ったがな』
親の愛情か・・・
俺も結にそれを知ってもらいたくて・・・でも、
「親父は俺に何でも捧げられるか?」
『・・・それは、結君に対してか?』
「・・・あぁ」
『・・・お前のそれは、』
そこで親父は黙ってしまった。
何なんだ・・・
「言ってくれよ」
『きっと、お前のそれは親心ではないと思うぞ』
「・・・はぁ?」
『確かに、子供のためならきっと親は命さえ捧げられるかもしれない。だがな、お前の結くんを見る目、話している時の声、お前から結くんに与えているものはきっと親からの愛情ではないと今日思った。この一日で何があったかは知らないがな』
益々意味が分からなくなってきた。
俺が結にあげているのは親としての愛情じゃない?何だよそれ・・・
じゃあ俺は結に何を与えられんだよ・・・
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