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第8話
「結、お前寒くないか?」
「寒くない・・・」
それならいいが、見ていたら寒いのではないかと思った。
Tシャツ一枚に半ズボンにさっき貸した大きすぎる靴下という格好、見ている方が寒くなってくる気がする。
沸騰する前に材料を切ってしまおうと思っていたのに全然終わっていない。
もう沸騰してしまっている。俺は慌てて火が通りにくい物から切って入れていく。
切っていく作業を見ているのが楽しいのか次はこちらに来て俺にぴったりくっ付き切られていく野菜たちを見ている。
少しやり辛いがこれくらいなら俺も何も言わない。
「にんじん・・・じゃがいも、とまと・・・」
並べられている野菜の名前を言っていく結。
あまり言葉が通じないことや、分からない物があるわけではないので気づかなかったが結はどうやって言葉を覚えてきたんだろうか。
学校に行っていなかったと言う報告が上がっていて、それは小学生の頃からだったと聞いている。
「結、お前言葉はどうやって覚えたんだ?」
「ゆきさん、教えてくれた・・・」
「ゆきさん?」
「となりの、お部屋の人・・・ベランダ出されると、いつもお話してくれてた・・・」
結の暮らしていたアパートの隣には誰も住んでいなかったはずだが・・・
「その、ゆきさんは今どうしてるんだ?」
「・・・分からない・・・ずっと前にけっこん?、していなくなっちゃった・・・」
そのゆきさんとやらと話しながら言葉を覚えていったがゆきさんは結婚するのを機に引っ越したんだろう。きっと結に言葉を教えながら意味も教えてくれていたんじゃないだろうか。結婚の意味を知らないのは、多分ゆきさんが結婚報告だけしていなくなったからだ。
「あかも・・・けっこん、したらいなくなる・・・?」
「俺は結婚しねーし、お前を放ってどこかに行ったりしねーよ。そんな変な心配すんな」
俺は結の頭をポンと軽く触り言ってやった。
結をそんな中途半端に投げ出したりしない。そんなことしたら結を気に入っている組長に怒られるのが目に見えてるし、それに俺は結と離れたくないと思ってしまっている。
それが何でかは分からないし、分かりたくないと思っている自分がいる。
俺は誰かに依存されるのも、依存するのもごめんだ。
もうされているかもしれないが・・・その反対は・・・今は考えたくない・・・
そんなことを考えながらも手は動いていく。
にんじんを入れ、じゃがいもを入れ、トマト缶を入れて煮ていく。
結と話したり、考え事をしているうちに沸騰した透明だったお湯はトマトによって赤くなり、にんじんやじゃがいももちゃんと柔らかくなった。
普通にいつも作るトマトスープより味を薄くしたし、野菜も柔らかい・・・これなら結も食べやすいだろう。
「できたからあっち行って座っとけ」
「・・・はい」
熱い鍋を持っている為少し強めに言うと結は大人しくリビングに行き座った。
この家には俺一人しか住んでいなかったから椅子なんて物はないし、絨毯に置いてあるテーブルの前に座るしかないが何故か結はわざわざクッションを避けて座った。
「おい、寒いだろ。なんでわざわざクッション避けたんだ。その上に座れ。それと、後でこたつ布団出すとして今毛布持って来るから少し待ってろ」
「これ、上に座るの・・・?」
「その為に置いてあんだよ。そのまま座ってたらケツ痛くなるからな」
そう言うと結はクッションの上に座ったので俺も動き出しテーブルに鍋を置いた。
「危ないから鍋には絶対に触るなよ?」
分かっているとは思うが一応注意はしておく。
俺はリビングをまた出て寝室に次は毛布を取りに行った。
帰ってくると相変わらずさっきと同じようにリビングのドアを見ている結がいて、肌の出ている足に毛布をかけてやった。
結は毛布の感触が気に入ったのかずっと撫でていた。
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