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第9話

毛布を撫でている結を見ながらキッチンに取り皿とスプーンを取りに行った。 戻ってくるとまだ毛布を撫でていたが俺が正面に座ると結は毛布を引きずりながら、俺の隣に座りなおした。 ちゃっかりクッションも持ってきている。 何だか変な感じだがまあいいだろう。 俺は皿にスープをよそってやり結の前にスプーンと一緒に置いてやる。 結は俺が自分の分をよそり、食べ始めるのを待ってようやく食べ始めた。 「食べれそうか?」 結が一口食べるのを見てから聞いてみる。 「おいしい・・・」 結は本当に美味しそうに言った。 ホッとした自分がいたことに何だか恥ずかしくなったが嬉しいものは嬉しかったのだ。 「明日からは食べたい物言ってくれよ?」 結は困ったように頷いたが食べたい物を言ってくれないと結の好みも分からない。 それは俺も困るし、結の好きな物をできるだけ食べさせてやりたい。さっきは“好きな物はない”なんて言われてしまったが、ないならないで好きな物くらい結の中で作ってほしい。 食べ物だけでなくて、物だったり、景色だったり、色んな物を見せたいし経験させたいと思った。 「結はさ、何か好きな物たくさん作ろうな。結はきっと感情豊かなはずなんだよ。組長に会った時だって緊張してたし、俺が料理してた時だって隣で楽しそうにしてた。それに毛布だって気に入ってるよな?ちゃんと分かるように感情出せるんだから経験していけば絶対に好きな物は増えていくから」 「ぼく、おじちゃん、好き・・・スープ好き、靴下も好き、毛布も好き・・・あか、一番好き・・・好きな物いっぱい・・・」 「おじちゃんて・・・でもな、世の中もっとたくさん楽しいこと、綺麗なもの、美味しい物、いいこと、たくさんたくさんあるんだよ。だからな、俺と経験して行こう?俺もさ、冷徹とか、心がないとか、感情が欠落してるとかすごい言われんだよ。だから俺と一緒に増やしていこう?」 結は難しそうな顔をしている。そうだよな、難しいよな。結にとっては今の状態でも好きな物がたくさんあってそれで十分なんだよな。 それに難しい言葉たくさんあってわかんないか。 でも俺が組長にたくさんのことを教えてもらったように、俺は結にたくさんのことを教えてやりたいと思っている。 俺は感情が欠落しているつもりはないんだが、周りはそう思わないらしく・・・ 俺にもきっと足りないものがあるんだろう。 「ぼく・・・れいてつ、けつらく、分かんないけど・・・あか、優しいと思う・・・ちがう?」 そんなこと言われたの組長ぐらいだな。 結はすげーな・・・ 結は俺のことを優しいと思えるのか。 俺は結に何もしてやれてないのに・・・ 「俺はこれから結に色んな事をしてやる、教えてやる。だから結、お前も俺に色んなこと教えてくれ」 「あか、なんでも知ってる・・・ぼく、分からないことたくさん・・・それでも、あかに教えることある?」 「ある。思ったこと、感じたこと、きっと結と俺じゃ違うことの方が多いだろ?それを教えあえば、今まで感じたことが無いことも感じれるかもしれないだろ?」 結はコクコク頷いた。 きっとこれは俺の勉強にもなるはずだ。俺が感じれないことをきっと結は感じることができる。結は分かること、新しい感情が増える。お互いに足りないものを埋めあう。 それは、きっとお互いに悪い話ではないはずだ。 そんな言い訳をしながら・・・俺は・・・ 俺は、無意識に結に笑顔になってほしいと思っていた。 結の本当の、満面の笑顔が見てみたいと・・・ このときにはもう俺は結にハマり始めてたんだ・・・

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