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第12話
結を開放してあげて俺は結の頭を洗い始めた。
結には泡が目に入ると痛いので目を瞑ってろと言ってある為結はそこまでしなくても・・・と思うくらい頑丈に目を瞑っている。
結の髪は3回程洗ったり流したりを繰り返すと、今までに触れたことのないくらいサラサラになった。結の髪は最初絡まり放題で分からなかったがとてもサラサラで触っていてとても気持ちが良かった。
今はツヤがないが絶対に綺麗な髪になると思う。
「痒いところないか?」
結は目を変わらずギュッと瞑りながらコクコク頭を縦に振った。
何故か口まで頑丈に閉じているようだ。
「じゃあ流すぞー」
何回目かのその台詞を言い俺は結の頭からお湯を流した。
「次は体だけど自分で洗えるか?」
「ぼく、自分で体洗える・・・」
「そうか、じゃあ俺は先に湯船入ってるな」
俺はとりあえずシャワーで体を流しお湯に浸かった。
暖かいお湯に浸かったのはどれくらい振りだろうか・・・
いつもはシャワーを軽く浴びて終わりだったから久しぶりにお湯に浸かるのが本当に気持ちよかった。
「できた・・・」
俺がぼーっとしている間に結は洗い終えたようで声をかけてきた。
「おー、じゃあ、交代な」
結は浴槽に恐る恐るというように手をお湯につけた。
いつもより温くしたから大丈夫だと思うが、心配で見守っていると結は安心したよに脚を入れ、全身浸かった。
「温かい・・・」
ホッコリしている結を見てからやっと俺は体を洗い始めた。
最初見たときは汚く、顔が綺麗ということしか分からなかったが、綺麗にしてからまた見ると余計綺麗だと言うことが良く分かった。
確かにタバコを押し付けられた後や、色の濃い痣があったりして見ていると辛いものがある・・・
これ以上のものを何度も仕事で見ているのに・・・
結だからか、痛々しく感じるし、本当に結の母親は許せないと思った。
「あか、あか・・・」
「ん?なんだ?」
「ぼく、好きな物増えた・・・」
嬉しそうな声で言ってくる結に、この短時間で何があったか考えてみた。
・・・が、何もない。
「増えた好きな物とやらは何なんだ?」
「暖かいお風呂・・・あかと、一緒に入るの嬉しい。ほかほか・・・」
そんな人からしたら普通のことでも、結からしたら今更好きな物に入るほど珍しい物なのだろうか・・・
俺がそんな事を考えて暗くなってしまっている間に結はお湯を掬って遊んだり、パシャパシャ音を立てて遊びだした。
「楽しいか?」
「うん、すごく、楽しい・・・」
まだ覇気のない、本当に楽しいのか分からない声だったが俺にはちゃんと分かった。
結はお風呂を好きな物に入れてくれた。着実に結の中の好きな物が一つずつ増えていくのを見て行くのが本当に嬉しいと思った。
「あかが、頭ワシャワシャ洗ってくれるのは、もっと好き」
「それは毎日洗えって催促か?」
「さいそく・・・?ごめんなさい、分からない・・・」
「い、いや!難しい言葉使って悪かったな!ごめんな!」
俺はしゅん・・・としてしまった結の機嫌を直さなければならなくなった。
何だか結には今まで人にしようと思わなかったくらい甘くなってしまうようだ。
「あ、じゃあ明日にでも国語辞典やら何やら買ってこよう。服も買いに行かないと行けなかったし、ついでに買ったこよう!な!」
「こくごじてん・・・知ってる。たくさん言葉載ってる本・・・」
「そうだぞ!そしたら、難しい言葉があってもそれ見たら分かるだろ?」
結は嬉しいのか“早く明日にならないかな・・・”と何回も繰り返し始めた。
俺も結の喜んだ顔を早く見たくて、柄にもなく“早く明日来い”と念じていた。
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