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６僕が絶対守るから
誘い方になんて今まで迷ったことがなかった。
いつもだったら体を寄せて、スキンシップを増やして、甘い言葉で誘惑してそのままもつれ込むところだが、伊織にそんなことはしたくなかったし、したところで「無理しなくていいんだよ？」と不安げに言われて終わりだろう。
だから誘うなら直球に言わなきゃいけない。それは分かっていたけれど、なかなか覚悟が決まらなかった。
そんな俺を不審に思ったのか、一緒にテレビを見ていた伊織はやがて、こう尋ねてきた。
「ねえ雫、何か僕に言いたいことでもあるの？」
「……何で？」
「さっきからずっとそわそわしてるから。どうしたの？ 何でも言ってよ」
「何でも言って、って言われても……」
思わず口ごもると、案外強い力で「僕に言えないようなこと？」と肩を掴まれて驚いた。そうじゃないけど、とお茶を濁すように答えると、伊織はその表情の不安げな色を濃くした。
「――雫？」
何度もなんども迷った。が、このまま黙っていればおかしな勘違いをされそうだと思った俺は、白状するように答えた。
「ええと……俺、伊織ともっと深い関係になりたいんだ」
「深い関係？ 二年後に家族になろうっていう約束じゃ不足？」
「そ、そうじゃなくて！ えっと、なんていうかな……俺……さ、その」俺は気恥ずかしくて、視線をうろうろと彷徨わせ、結局伊織の手元に落とした。「……伊織と、一つになりたくて」
伊織は少しの間黙った。それから静かに「体の関係がないと、不安？」と問いかけてきた。
「ち、違うよ。そうじゃなくて俺……伊織と先に進みたいんだ」
「いいの？ 大丈夫？」
伊織はやっぱり、何よりも先に俺の心配をしてくれた。それだけ今まで心配をかけたのだという申し訳なさと、俺のことを第一に考えてくれることへの嬉しさでいっぱいになった。
頷くと、伊織は少し考えた後「ベッドに行こうか」とおもむろに呟いた。
「伊織、えっと……そっちの引き出しに、その、入ってるから」
なぜだか気まずくなって何がとははっきり言えなかったが、伊織はそれを聞いて察して頷いてくれた。それから「キスしていい？」と尋ねてきた。首肯すると、伊織はゆっくり唇を重ねてきた。
やっぱり伊織は、俺を大事に扱うようなキスをしてくれる。他の人の欲望を第一に考えたそれとは全く違う。キスがどう、っていうよりは、その気持ちが嬉しくて胸がいっぱいになって、もっととせがむように伊織の背中に手を回した。
「好き……愛してるよ、雫」
唇を離した後、そう耳元で囁かれた。俺は伊織に愛を囁かれるのが好きだ。少し切なげなその声で愛してると言われると、体の芯がかっと熱くなる。
「俺も、好き」
すると伊織はふっと笑って、嬉しいよ、と呟いた。それから俺の体に触れて、いい？ と問いかけてきた。何が、とはさすがに聞かない。俺は頷いた。
そしたら伊織は、ゆっくりと優しく、俺の服を脱がせてきた。「世界一愛してるよ……」なんて囁いて、色んなところにキスマークをつけながら。
俺はキスマークを付けられるのも好きだ。伊織からの愛が目に見える形になって俺に刻まれるみたいで。キスマークをつけられたところが熱を持って疼く。愛を囁かれながらあちこちにつけられると、伊織の独占欲で縛られていくみたいで、どきどきする。
「は……っ、伊織ぃ……んっ……」
服を脱がされてキスマークをつけられているだけなのに、体が火照って仕方がない。こんなことは伊織だけで、どうすればいいのか分からなくなってしまう。
「キスマークつけられるの、好き？」
「すき……もっとつけて……」
自分でも意図せずに声が甘ったるくなってしまって、恥ずかしくなる。伊織はそんな俺の声を聞くと、ゆっくり俺のズボンと下着を脱がせて、内腿にキスを落とした。
「んっ……」
これだけで興奮してしまうなんて、おかしいかもしれない。けれど火照った体は言うことを聞かない。
「好き……好きだよ雫……ずっと僕だけのものだからね……」
赤い所有印がいくつも増えていく。するつもりはもちろんないが、こんなにつけられたら他の人と関係を持つなんて到底無理で、それが分かっているからこんなに興奮してしまうのかもしれない。
「……雫、気持ちいい？」
「み、見ないで」
屹立してしまった下半身を隠すものが何もないので、感じてしまったことが伊織にしっかりバレてしまった。恥ずかしくてせめて手で隠そうとしたが「隠さないで」と手を掴まれた。
「僕に束縛されるの好きなんでしょ？ そう思ってくれて僕は嬉しいよ」
伊織はそして立ち上がって「ここだっけ？」と一つの引き出しを指差した。察して頷くと、伊織はその中からローションとゴムを取り出して置き、さっさと服を脱いでゴムの袋を開けようとした。
「俺、別に生でも――」
「ダメ。雫がそっちの方がいいなら別だけど、用意してるってことは違うんでしょ？」
「まあ、それは……」
後処理が面倒だし、そもそも実は精液に触れることすら嫌だったから、確かにそうだ。けれどいつからだっただろうか。付けてと相手に言うのを諦めたのは。色々なことに慣れてしまったのは。
「いいんだよ、僕とは頑張らなくて」
伊織はそう微笑んで、俺のことを抱きしめた。
「……っ」
下腹部に硬いそれが当たる。伊織も男なんだと思うと同時に、我慢させているのが申し訳なくなった。
「ねえ伊織、好きにしていいよ。俺だったら、ちょっと慣らせばすぐ入るから――」
「――自分の体を何だと思ってるの。もっと大切にしなきゃダメでしょ？」
伊織の声のトーンが下がった。
「……俺なんて、大切にしなきゃいけない体じゃないから」
「そんなこと、絶対ないから」
伊織は間髪を容れずに否定してきた。その真剣な表情で言われたのが嬉しくて、心が溢れた。それから伊織は、ねえ、と問いかけてきた。
「雫はどうしてほしい？」
「俺、は……」
今まで、相手をどう受け入れるかばかり考えていて、自分がどうしてほしいなんて考えたことがなかった。だからまず戸惑った。それから恐る恐る、伊織を見上げた。
「優しく……してほしい、かな。……痛いのとか激しいのは、嫌だから」
「分かった。今までで一番、優しくしてあげるね」
伊織は安心させるように笑うと、その優しさで俺を包み込むように囁いた。
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