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1初体験は失敗と共に

 俺は悩んでいた。――いい加減、和泉とヤりたい。  付き合ってもう半年なのに、まだ軽いキスしかしていない。こんな言い方をするとまるでお互いに原因があるように聞こえるが、全て俺のせいだ。  二人で遊んだとき、いい雰囲気になったことは何度もあった。和泉が家に泊まりに来ることもあった。俺の勘違いじゃなければ、和泉から遠回しに誘われたことすらあった。だから機会は腐るほどにあったはず。  それでも軽いキスしかできていない理由は一つ、俺の意気地が無いからだ。  手を握ろうとすればじっとりと手汗が滲み、それで結局やめてしまったり、抱きしめようとすれば突然自分の体臭が気になりだし、触れることすらできなくなったり。自分でも恥ずかしいほどの童貞ぶりを、未だに発揮し続けている。頭の中じゃもう何度もヤっているのに、いざ和泉を前にすると、緊張して何もできなくなるのだ。  けれど何もできずに溜まりまくった欲は往々にして暴走しがちだ。この前なんか、いつか和泉に着てほしいなぁなんて考えていたらいつの間にか、セーラー服を型紙から起こして作っていた。  その時はさすがに自分にドン引きした。それを見た姉からの「……あんたそれ、着るつもり?」という冷たい視線は、今でも忘れられない。  自分がキモすぎてそのセーラー服を捨てようかと悩んだが、その時に限ってやたらと上手くいってしまったのだ。なので結局捨てられず、タンスの肥やしになっている。今でもタンスを開いてそれを見るたび、自分のあまりのキモさに落ち込む。  もうこのまま一生先に進めないんじゃないか、そう思うほどに俺は意気地なしなのだ。嫌われたらどうしようとか、気持ち悪がられたらどうしようとか、そんなことを悶々と考えてしまう。  冷静になって考えると、一切手を出さない癖に相手に着てもらうためのセーラー服を作ってしまう方が、何倍も嫌われるしキモがられるだろうに。  ああだけどどうすれば。どうすれば、和泉と自然な流れでできるんだろう――。 「……渉くん? さっきからずっと黙ってるけど、大丈夫?」 「へっ? ……あ、ああうん、全然大丈夫っ」  声が裏返ってしまった。どう見ても全然大丈夫、じゃない。それが自分でもわかって、恥ずかしくて俺は黙った。  今日は俺の両親ともに仕事で出張らしく、姉も遠征とかで遠くにいる。なので和泉は俺の家に来ていて――普通に考えたら、絶好の機会だ。それなのに俺は、手を出すどころか和泉に触れることすらできず、ただ黙り込んでいた。 「……あ、あのね渉くん」  和泉が俺の近くに来て、体を寄せてくる。付き合い始めて分かったが、和泉は意外と積極的だ。だけど思い返してみると、和泉と平太が仲良くなったのは、平太の元へ和泉がしつこく押しかけたからだったか。  それだけの動作でも、俺の心臓は分かりやすく高鳴って、吐きそうにすらなる。もしかしたら、和泉が積極的なんじゃなくて俺が消極的すぎるのかもしれない。いや、きっとそうだ。 「なっ、何だよ」 「えっと、今日さ……付き合い始めて、半年だよね?」 「お、おう」  俺は思わず和泉から目をそらした。恥ずかしくて直視できなかった。 「……だけど、まだ何にも進んでないでしょ?」  こんなに直接的に言われると思わなかった。それだけ俺が、目に余るほどヘタレなんだろう。自分が果てしなく情けなくなる。 「あ、あのね、だからねっ……」  和泉が口ごもる。視線をうろうろさせて、言葉を探していた。心なしか顔が赤い。  どうしたんだろうと見つめていると――和泉は急に俺の手を取ると、それを自分の胸に当ててきた。その行為にびっくりしすぎて、「うぇ⁉︎」と変な声が出てしまう。 「僕のこと、す、……好きにしていいよ、渉くんの」  和泉はそのまま俺の指を、つう、と動かした。指の腹が硬い突起に触れた瞬間、和泉は切なそうに眉を寄せて「は……」と吐息を漏らす。そしてその顔のまま、俺をわずかに上目遣いで見た。  見たこともない扇情的な表情に、生唾を飲み込む。気付けば、身体中の血液が下半身に集中していた。 「……す、好きにしていいって……」 「そのまんまの意味、なんだけど……」 「……本当に? 何でもしていいの?」  和泉がその問いに、恥ずかしそうにこくりと頷く。一気に顔が熱くなった。恥ずかしいくらいにギンギンになった下半身は、きっと和泉にバレてしまっている。  言え! 言うんだ俺! 今行けなきゃ男じゃない! そう自分を奮い立たせながら俺は口を開いた。――だけど、緊張しすぎていたからなんだろう。あんな意味不明なことを言ってしまったのは。

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