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5初体験は失敗と共に
「……い、挿れていい?」
「……うん」
和泉が恥ずかしそうに頷く。俺は頷き返して……そうか、俺、和泉を抱いてるんだ。再確認したらもうダメで、頭が一気に沸騰した。
俺は今、和泉で童貞を卒業しようとしている。だけどいいのか? 和泉の相手がこんな俺でいいのか? 得体の知れない焦燥感と不安感が、どうしてか俺を埋め尽くす。
「ほ……本当に?」
情けないことに、この期に及んでそんなことを確認してしまった。だが和泉は優しくて、また頷いてくれた。けれど俺はさらにヘタレで、
「本当に? 俺、うまくできないし、痛いだけかも……俺の独りよがりになっちゃうかもしれねーし、その、俺、お前を満足させられるかどうか……」
不安から思わず口走ってしまった。どうして俺はこんなにヘタレなんだろう。最悪だ。穴があったらそのまま生き埋めになりたいくらいだ。
けれど和泉は本当に優しくて、少し戸惑った後、柔らかく笑ってくれた。
「だ、大丈夫だよ? 下手でもなんでも、僕、渉くんが好きだし渉くんとしたいから」
「で、でも……」
「……もしかして、わざと焦らしてる?」
和泉がちょっと拗ねたような声で言う。俺は慌てて否定すると、「よ、よし、挿れるぞ」と再度宣言した。
けれど、上手くいかなかったらどうしよう、と嫌な想像ばかりが頭を巡った。すでに全く上手くいってないのに。
幻滅されたらどうしよう、引かれたらどうしよう。緊張しすぎて訳が分からなくなって、どうしようどうしよう、と心の中で何度も呟いて――ようやく覚悟を決めたその時、俺の息子がすっかり萎えてしまっていることに気が付いた。
「……クソ野郎ッ……!」
行き場のないやり切れなさに俺は頭を抱えた。リアルに頭を抱えた。何だこれ。何で俺こんなに情けなくてヘタレなんだろう。いっそのこと死んでしまいたい。
どうせ俺はダメなんだ。チャンスがあったところでモノにできないんだ。このまま和泉に幻滅されて別れて、一生童貞を卒業できないままで、このまま俺は、一生……! ネガティブな思考がぐるぐると回る。
「……渉くん?」
いきなり頭を抱えだした俺を見て、和泉が怪訝な顔をした。そして視線を下にやって、合点がいったような表情になった。
「ごめん和泉、マジでごめん……めちゃくちゃ緊張しちゃって、どうしていいかわかんなくて……嫌だよなこんな彼氏……ごめん本当に……」
情けない。あまりに情けなくて、泣きそうにすらなってくる。告白もまともにできなくて、初夜だって中折れして……俺だったらこんな恋人、かっこ悪くて嫌だ。
けれど俺のエンドレスなネガティブ思考を断ち切ったのは、和泉の笑い声だった。和泉はそんな俺を見て、思わず、といった調子でふきだしたのだ。
「……え?」
恐る恐る顔を上げると、和泉は慌てて表情を引き締めた。
「あ、ご、ごめん! 笑うところじゃないよね、今の! でも……僕、渉くんのそういうところ、結構好きかも」
「そういう、ところ……?」
半泣きになりながら問う自分の声は、想像以上に情けなかった。だけど和泉は、気にした様子も見せずにこにこしながら言う。
「なんかね、最初は、何で手出してくれないんだろうって思ってたんだ。僕に魅力がないからかな、とか、僕が男だからかな、とか。でもね、必死な渉くん見てたら、僕が好きだから緊張してあたふたしちゃってるだけなんだ、って分かったら……なんだか可愛いなって思えてきちゃった」
「かわ……可愛い……?」
「うん、えへへ。だからね、そんなに気にしなくって大丈夫だよ」
この死ぬほど情けなくてヘタレでかっこ悪い俺のどこに可愛い要素があったのかは全く分からないが、とりあえず幻滅はされていないようでほっとした。
「とにかく、もう一回勃てばいいんだよね?」
「う、うん……とりあえず色々頑張ってみる、け、ど……?」
最初のように、和泉にまた押し倒された。理解ができなくて和泉をぼうっと見つめていると、和泉は俺の萎えたそれの根元を持ち、おもむろに舌を這わせた。
「い、いいい和泉⁉︎」
まさか和泉がそんなことをするなんて思わなかった。もしも頼んでも「そ、そんなこと、できないよ……」と赤面するばかりだと思っていたのに。
和泉は初心で純粋で可愛い天使だと思っていたが、考えを改める。和泉は、意外と積極的でそれからエロくて、最高に可愛い天使だ。
不意に、和泉の舌が俺の裏筋を撫でた。ダメだ、そこ、めちゃくちゃ弱いのに。思わず「あっ……」と恥ずかしい声を上げてしまった。それに気付いたのか、和泉は奥まで咥えてから、唇や舌で重点的に責めてきた。
「っ、和泉、待てってっ……んっ、待って、ちょっと待っ……あぁっ……やばいってそれ、やばっ……んぁ……」
これじゃどっちが抱いてるのか分からない。こんな声、初めて出してしまった。恥ずかしい、けれど、すごく気持ちいい。今までのどんな自慰と比べても、遥かに気持ちいい。
何より、和泉自身がめちゃくちゃエロい。少し伏し目がちの色っぽい目をしていて、そんな顔で俺のものを頬張るように奥まで咥えられたら――勃たないはずがない。
我慢しきれずガチガチに硬くなった頃、和泉はゆっくりと口を離してから、少し笑いを含んだ上目遣いで俺を見た。
「へへ、おっきくなったね?」
おっきくなったね――その言葉と上目遣いのコンボは、俺にとってはあまりにもダメージが大きかった。顔も身体もかあっと熱くなる。その表情と言葉だけで何回かは抜けるくらい、クるものがある。
「おま、それは……反則……」
「え? 何が?」
しかし和泉には、煽った自覚が全くないようだ。天然って恐ろしい。
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