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6初体験は失敗と共に

「い、和泉、じ、じゃあ、挿れ――」  覚悟を決めて起き上がろうとしたが「待って」と和泉に止められた。疑問に思っていると、和泉はそのまま、再度俺の上に跨ってきた。 「……へ? あ、え?」  この状態はつまり……そういう対位? でやるってことか? 混乱で頭がうまく回らない。 「挿れるよ、渉くん……」  少し掠れた声で和泉が囁く。その声の色気に、頭がクラクラする。 「ええええっ! 待って、待って和泉、ちょっと俺っ、心の準備とかそのっ……!」 「そんなこと言われても、僕もう、無理……大丈夫だよ渉くん、リラックスして」 「えっちょ、待っ……ん、」  和泉は自分の孔に俺のをあてがって、ゆっくりと腰を沈めてきた。俗に言う騎乗位だ。ああこれじゃ、どっちが抱いてるのか分からないな。不甲斐なくなるが、そんなのは、中の気持ちよさで全部吹っ飛んだ。  何だこれ。熱くて、きつく締め付けてきて、やばい。めちゃくちゃ気持ちいい。その感覚に浸る間もなく和泉が腰を緩くグラインドしてきて、さらに未知の快感が俺を襲う。 「あっ……ん、渉、くんっ……きもちいい……? っ、あ……」 「はぁっ……すげー、きもちいい……和泉、いずみ……っ」  俺からは和泉の感じている顔も、結合部も、ばっちり見える。それに、今までにないくらい、興奮する。  初めてだから仕方ないのかもしれないが、リードするどころか、マジで何にもできてない。完全に受け身だ。でも俺から何かする余裕は全くない。それどころか、すぐにでもイッてしまいそうにすらなる。 「は、ぁっ……あ、ぁん、んっ……わたる、くん……んんっ、ん……」  和泉は、自分でイイところに当てながら腰を動かしているんだろうか。俺のモノを使って、感じきった顔をして、善がりながら快感を追いかけてるなんて、すごくエロい。 「和泉、ん……すげー、エロい……可愛い……っはぁ、好き……」  思わず呟いた。そしたら、これ以上赤くはならないだろうと思っていた和泉の顔が、さらに赤くなった。それから、締め付けが強くなった。和泉は俺の言葉に恥ずかしくなって、感じてしまったんだ、という事実にも興奮する。  言葉攻めなんて器用なことはできなかったが、好き、とか可愛い、とか、伝えられるだけ伝えた。すると和泉は控えめだった声をもっと出すようになった。 「わたるくんっ……ぼく、もう……っ、はぁ、っん……! もう、むり……ぁっ、かも……」 「はぁ……ん、俺……おれも、やべー……もう、イキそ……」  すると和泉は、ふるりと口元を緩めて「イこ……いっしょに」と囁いた。その表情があまりにも可愛くて、俺の下半身だけじゃなくて胸も痛いくらいに疼いた。  和泉の息がさらに速く浅くなっていく。そのまま腰を動かして、ある時、目をぎゅっとつぶって、身体を仰け反らせながら、声にならない声を上げた。その瞬間、中がまるで精液を搾り取ってくるように強く絡みついてきたものだから、自覚するよりも先に、俺は達していた。 「……へへ」  和泉が甘えるように小さく笑って、俺に抱きついてくる。一方の後処理も終えた後の俺は、どこか清々しいような、さっぱりしたような、賢者タイムなんて微塵もない、満足感でいっぱいだった。  とうとう童貞を卒業したんだ、俺。十六年以上付き合ってきた童貞に、ついに別れを告げたんだ。そう思うと、世界の全てに感謝を言いたいような、そんな何とも言えない気持ちになる。これでようやく俺も、大人の階段を登れたんだろうか。  しかしひとしきり感慨にふけってから、行為の内容を思い出した俺は、そんな感情が一気に吹っ飛ぶのを感じた。あんなに痴態を晒しておいて、何を満足そうに。全然ダメだったじゃないか。  そんな、いきなり表情を変えた俺を怪訝に思ったんだろうか、「渉くん?」と和泉は不思議そうに尋ねた。 「ごめん……俺、めちゃくちゃ情けなかっただろ……?」  しかし和泉は、「ううん!」とかぶりを振った。 「そういうのはあんまり思わなかったなぁ。むしろ、可愛いなって思った!」 「……は?」 「なんかね、頼れる時はすっごく頼りになってかっこいいのに、こういう時に慌ててるのを見ると、なんか、きゅんってくる!」  そう言った後に和泉は、少し考え込んで「……ギャップ萌え? ってやつ?」と首を傾げた。どこでそんな言葉を覚えたんだ、和泉。 「だからね、何が言いたいかっていうと……うーんと、かっこいい渉くんも、可愛い渉くんも、どっちも僕は好きだから気にしないで!」  そう、きらきらした眩しい笑顔で言う和泉こそ、ものすごく可愛かった。何が可愛いのか理解できなかったが、和泉がそう言うなら何でもいいか、と思った。 「で、でもさ、この服、必要だったかなぁ……?」  恥ずかしそうに自分の着ているセーラー服を引っ張る和泉。それは本当に申し訳ない。女装と着衣セックスは、完全に俺の趣味でしかない。 「ごめん、俺の趣味に付き合わせて……もう脱いで大丈夫だから」  思わず謝ってから、ふと、今日謝るのは何回目だろう、と思って悲しくなる。和泉はそれを聞いて、いそいそと服を脱ぎ始めた。そして脱ぎ終わってその服を畳んで床に置いてから、俺にまた抱きついてきた。 「別に、コスプレは全然いいんだよ? でも、毎回女装だと恥ずかしいかな……たまにならいいんだけどね。女装じゃなくてさ、ほら、他の服とかじゃダメなの? 例えばそう……お医者さんとか!」  ――数日後、気づけば白衣を型紙から起こして作っていた俺に姉ちゃんが「……あんた、なにまたマニアックなもん作ってんの」とドン引きした顔を向けてくるのは、また別の話だ。

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