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1赤に染めた理由

※bloveで番外編として載せていたものです。アカと佑太郎が「5王子様と執事」後から「7こんな服装なんて聞いてない」のような関係になるまでの話です。 「……お前、名前は?」  俺と平太の出会いは、平太が入学してクラスに入ってまず、席が後ろの俺に話しかけてきたことだった。 「赤原紅輝、だけど……俺に話しかけてくんなよ、うぜえ」  そう言って前を向こうとすると、平太は「ははっ」とふきだした。なぜ笑われたのか分からなくて不快で、「何だよ」と睨み付けると、平太は笑顔で答えた。 「だってさ、本当に話しかけてほしくないなら名前答えねえじゃん? 俺は明塚平太。仲良くしてくれよ、席前後なんだからさ」 「お前、まず俺に話しかけるとか馬鹿じゃねえの?」 「んな寂しいこと言うなよ。そんなこと言うのは――お前の頭がそんなんだから?」  平太は何気なくそう問いかけてきた。  俺の髪は生まれつき白い。髪だけじゃない、肌も白いし目は白に近い薄い青色だ。染めた訳でも、美白を目指している訳でも、カラコンをしている訳でもない。先天性白皮症――俗にアルビノと呼ばれるものだった。  俺は自分の見た目が反吐がでるほど嫌いだった。周りからは気味悪がられたり、反対に変にちやほやされたりした。  気味悪いと言われるのが嫌で人を避け、儚げだと言われるのが嫌で体を鍛えた。見た目抜きに俺を見てくれる人間は一人も現れず、俺はずっと一人だった。 「以外に何があんだよ」  わざと素っ気なく答えると、平太は少し首を捻って、何気なく答えた。 「そんな気になるか? かっこいいと思うけどな。それなんて言うんだっけ、アルビノ?」  かっこいい――なんて、そんなこと言われたのは初めてだ。信じられなくて目を瞬いていると、平太はさらに信じられないようなことを言った。 「ま、人は見た目じゃねえし、俺は別に気にしないけど」 「……お前、馬鹿なの? んな気持ち悪い見た目、普通避けるだろ」  信じられなくて、俺は半笑いで尋ねた。  平太は少し苦い顔になって「俺、嫌いなんだよね」と呟いた。 「見た目とか家庭事情とか、そういう自分じゃどうしようもないところで人判断するやつ。そんなこと言ったってどうにもできねえじゃん。……そんなに気になるなら、髪染めちゃえば? ここの中学派手だろ? だから今日入学式なのに既に髪染めてるやついるし。茶髪とか金髪とか」 「染めるったって……何色に」 「別にお前の好きな色でいいんじゃね? 黒でも金でも……あっ」  平太はその時、不意に面白いことを思いついたような顔になり、笑った。 「赤は? お前の名前赤原じゃん? 下の名前が……ええと」 「紅輝。紅に輝くって書いて紅輝だ」 「じゃあなおさら赤でいいじゃん。いっそのこと赤に染めちゃえば『俺は好きで目立ってんだ』って胸張れんだろ」  悪戯っぽく笑う顔を見て、何を言っているんだと馬鹿にする気持ちがすっかり失せてしまった。それどころか、染めてみても悪くないかなとも思った。  髪の毛を赤色に染めてから、見える世界が変わった。  確かに目立つ。それは今までとは変わらない。だけど、俺は好きで目立つ格好をしているんだ、と思うと、何だか少し誇らしくもなった。 「儚くて神秘的だ」「同じ人間に見えなくて気持ち悪い」なんて言われなくなり、代わりに「不良だ」「派手で怖い」なんて言われるようになった。神秘的だとか人間に思えないだとか、そんなことを言ってきたやつの鼻を明かしてやったような気分だった。痛快ですらあった。  周りには最初怖がられていたが、平太たちと一緒にいたおかげだろうか、いつの間にか皆に話しかけられるようになって、クラスの中心にもなれた。  染めた当初は両親に泣かれたが、俺が社交的になったのを見て今度は安心して泣かれた。  髪を染めてよかった、そして何より平太に出会えてよかった。俺は強くそう感じていた。  ――のに。 『俺はお前のことはどうしても好きにはなれない。あの先輩じゃないと駄目なんだ。先輩だから男でも好きになってるだけで、先輩が女だとしても俺は先輩が好きだったと思う。だから、ごめん』  分かっていた。平太が俺のことを何とも思っていないことも、高校で付き合ってる人ができたのも。とっくに諦めていた――けれど、割り切れないものは割り切れない。  それは文化祭で振られたからしばらくした今でもそうで、ぐずぐずと想い続けている。もう諦めてるはずだったのに、振ってくれって頼んだはずなのに、俺はまだ――

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