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3赤に染めた理由

「は?」  思わず聞き返すと、「だーかーら」と佑太郎は再び言った。 「ストレスをセックスで全部発散してるからだって言ったの俺は!」  ぶっ飛んだ、しかし佑太郎らしい答えに、俺はぽかんと口を開けてしまう。 「セックスはいいぜー、うぜえやつのこととか上手くいかねえこととか、ぜーんぶ吹っ飛んじまうんだから!」  かと思うと、佑太郎は唐突に俺のことを押し倒してきた。 「フラれた辛さなんて俺で忘れね?」  その言葉の意味に思い至り、俺は血の気が引くのを感じた。 「ば、っばか! お前冗談だろ? なあ、冗談って言えよ!」 「俺はさー、付き合おうぜって言ってるんじゃねえんだよ。いーじゃんセックスの一回や二回! 一発ヤってすっきりしよーぜ?」 「お、お前はいいかもしれねえけど! 俺はっ――!」 「だいじょーぶだいじょーぶ! 俺男も抱いたことあるし、絶対気持ち良くしてやるから」 「そ、そうじゃなくて! 俺は!」  反論の隙も与えられず、唇を重ねられ、舌をねじ込まれた。――ファーストキス、まだだったのになぁ。俺はそう心の中で嘆いた。  口内を佑太郎の舌で擦られ、舌を絡められ、歯列をなぞられ――絶対に拒否してやるはずだったのに、力が抜けてしまった。それどころか、気持ち良くなってしまっている自分がいた。上手い下手の基準はよく分からない、けれど、佑太郎のは間違いなく上手いと思う。  ようやく離された頃には、認めたくはないが、息が上がってしまっていた。 「ゆうたろ……おれ、むりだから、やめて……」  怒鳴るはずだったのに、弱々しい懇願になってしまった。それを聞いて佑太郎は、なぜか苦しそうに「おまっ……それはさすがに反則っ……」と眉を寄せた。 「反則って何が……ってお前、何で俺のこと脱がせてんだよ! ちょ、本当に無理だって――」 「大丈夫、俺と一緒に気持ち良くなろ?」  今までのおちゃらけた声とは一転、くらっとするほどの色気を含んだ声で囁かれた。ずくんと体が疼く。抱かれてもいいかなんてバカな考えが一瞬よぎる。  俺でこうなんだから、佑太郎に気がある女はイチコロなんだろう。どうしようもないバカで面食いでクズな佑太郎の女が途切れない訳を理解した気がした。  つう、と指で腹をなぞられる。それだけのことなのに、腰が浮きかけた。 「鍛えてるんだな、ちゃんと」 「だから何……あっ……」  不意に首筋を舐められて、変な声が出てしまう。佑太郎は俺の耳元で笑うと、また囁いた。 「すげえ綺麗。触っていい?」 「も、もう触ってんじゃねえか……んっ……」  胸の突起を掠めて舐めるように撫でられ、声になりかけた息が漏れた。知らない。こんな俺なんて知らない。 「ここがイイの?」  柔くつねられて、変な声が出そうになるのを歯をくいしばって堪えた。  ここがイイの、じゃねえよバカかお前は、女じゃねえのに気持ちいい訳ないだろ――そう反論しようと思ったのに、ぎらぎらとした雄の欲望に濡れた佑太郎の瞳に見つめられ、また体が疼いた。嫌だ、このままじゃ雰囲気と佑太郎の色気に流されて抱かれてしまう。拒みたいのに、佑太郎の瞳に見つめられていると、疼きがどんどん増幅していく。 「ここ、イイの?」  わざとらしくまた尋ねると、佑太郎はそこをゆるく愛撫し始めた。  抱かれるなんて絶対嫌なのに、佑太郎の手によって否応にも高められていく自分がいるのに気付いた。情けない声が出るのだけは唇を噛んで堪えたが、息が荒くなるのは抑えられなかった。 「ここイイんだろ? お前すげー良さそうな顔してるぜ?」 「んっ……」  吐息交じりに囁かれる。佑太郎の官能的な声に脳が揺さぶられる。情けない声が少し漏れてしまった。それに気付いたのか、佑太郎が瞳に意地悪な色を灯した。 「あ、乳首いじられながら耳元で囁かれんの、好きなんだ?」  勢いよく首を振って否定するが、佑太郎は全く聞き入れない。 「はっ、お前やっぱ強情だよなー。認めねえといつまでもコレやるぜ?」  佑太郎はそう笑うと、ぐっと耳元に口を寄せてきた。 「なあ、さっさと認めちゃえよ。俺にエロいこと囁かれながら乳首いじられんの、イイんだろ?」  首を振った。けれど体はその囁きに反応して、もどかしくなるくらい疼いた。 「認めたらもっとイイことしてやるぜ? お前だって気持ち良くなりたいんだろ? ここをこーんなに大きくしちゃって」  勃起してしまっていたそれを柔く握られて、体が少し反応してしまった。だが俺はそれでも首を振った。このまま佑太郎に流されるのは嫌だ。 「あークソ……そういう反応されるとすげー燃える」  しかし、その反応は佑太郎の火をつけてしまったみたいだ。

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