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5赤に染めた理由

 その後ゆるゆると佑太郎を見上げると、申し訳なさそうな顔をした佑太郎が、俺の中から抜いて、ゴムを外して、慣れた手つきで口を縛って置いた。俺はそれをぼんやりと見ていた。  何も考えられない。茫然自失、ってやつなんだろうか。何があったんだっけ、今。  佑太郎はなぜかその場で正座して、「ごめん」とぼそぼそと謝った。 「ごめん、俺……マジで最後までヤるつもりなくて……てゆーかホントはヤるつもりもなくて……」  深刻な顔をした佑太郎なんて見たことがなくて、変におかしくなる。少し笑いそうになってから、ふと、今したことの実感が急に湧いてきた。……セックスしたのか、俺、佑太郎と。しかも俺は、こいつに処女を奪われたことになる。童貞を卒業するよりも先に。  言葉で言い表せないくらいたくさんの感情が渦巻いて、闘う。やがて最後に残ったのは――、佑太郎への怒りだった。 「……ふざけんなよお前! ほんとはヤるつもりなかった、って言葉で済むと思ってんの? お前自分が何したか分かってる?」  佑太郎はさらに体を縮こませて、「マジごめん……」と呟いた。 「でもホントに、ちょっとからかって終わりにしようって思っててさ……でもお前の反応が……」  佑太郎はぼそぼそと言い訳がましく呟くと、ふと俺を見上げ、真剣な顔で問いかけた。 「……お前、実は経験あるだろ」 「はぁ? ねぇよバカ! お前が初めてだクソ野郎!」 「にしては……いや、何でもない」 「にしては、何だよ? 言ってみろよ」 「言ったらお前怒るじゃん……」そう躊躇ってから、佑太郎は言った。「……にしては、お前エロすぎ」 「なっ……」  ストレートすぎる言葉に、顔が熱くなる。ふざけんなこのバカ、と罵ろうとした言葉すらも、宙に浮いてしまった。 「なあアカ、ホントに経験ないの?」 「っ、ないって言ってんだろ、何度も言わせんな! ……何で童貞の前に処女を失わなきゃならないんだよ……」  平太を好きになったのは確かだ。けれどあいつは特別だ。俺はそれなりに女の子に興味がある。……AVだって、それなりに見てるし。情けなくて悔しくて、うつむきそうになる。  だが、顔を上げて佑太郎を見ると、佑太郎はびっくりするほど間抜けな顔をしていた。 「……え? お前童貞なの?」 「……だ、だから何度も言わせんな……!」  すると佑太郎はさらにアホヅラになった。 「……え? 待って待って、お前童貞……え? 嘘マジで? えっちょっ……ごめんマジごめん……うわマジか……マジかぁ……」 「ず、ずっと言ってんだろ……何だと思ってたんだよ」 「いや、俺はただ抱かれたことがないだけかと……童貞なんて中学までに卒業してると思ってた……」 「……っ、うるせえな! 童貞で悪かったな! お前じゃないんだから、そんな早く卒業するはずねぇだろ。それに俺は……」 「平太が好きだったからって? ……にしてもさ、こう、誰かといい感じになったことない? あん時つるんでたヤツでまだ、って、お前だけじゃね? 平太も賢もとっくに初体験済ませてんのに」 「……マジで?」 「マジ。俺が二人から無理やり聞き出したから間違いない。平太が……確か年上のJKのお姉さんで、賢が……年上の家庭教師のお姉さんだったっけな。どっちも年上の可愛いお姉さんだって言ってたのは覚えてる」 「マジか……」  愛菜と優香がとっくに初体験を済ませてたのは知っていた。というか自分たちで言っていた。確か愛菜が同じクラスのバスケ部で、優香が兄の友達だったはずだ。  でも、平太と賢がとっくに済ませていたことは分からなかった。平太はあの先輩が最初で、賢はまだだと思っていた。だって二人とも、特に彼女なんて作っていなかったはずなのに。……まあでも、あの二人が童貞って、かなり考えづらいが。  佑太郎は「ってことは俺が正真正銘、初体験の相手か……やらかした、今世紀最大にやらかした……」と頭を抱えた。それからぽつりと、こう呟いた。 「……お前やっぱ、見た目の割に超ピュアだよな」 「う、うるせえな放っとけ! ……で、どう責任取るつもりなんだよこの状況……」  女の子だってちゃんと好きなのに、最初からこんな――強烈な快感を覚えてしまって、俺は今後ちゃんと女の子を抱けるんだろうか。……もしダメだったらこいつを殺そう。そうするしかない。  物騒な覚悟を決めつつある俺に、佑太郎はこう言った。 「なぁアカ――責任、ちゃんと取ればいいんだよな? 許してくれるよな?」

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