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6赤に染めた理由

 あいつバカだ。やっぱりバカだ。正真正銘のバカだ。佑太郎の言葉を何度思い返しても、その感想しか出てこない。  昨日疲れたせいか、今日は寝過ごした。おかげで遅刻だ。いつも一緒に学校に行っている佑太郎は、俺を起こす努力一つせずに俺をさっさと置いてった。……今日ばかりはそれがありがたいが。  ホームルームには間に合わないが、一時間目までにはギリギリ間に合うか――一時間目は古典の授業で、赤点しかとっていないから欠時まで多くなるとやばい。家から走って電車に乗って、駅からも走って何とか、ホームルームの終わりを告げる鐘の音と共に、校門に滑り込めた。  そうして息を切らせながら入った教室は、なぜか居心地が悪かった。何でだ、と考えて、なぜか今日はやたらに視線を集めていることに気づいた。恥ずかしい話、俺の遅刻はさほど珍しくない。だからそんなに注目されるはずがないのに――その疑問は、すぐに解けた。  戸惑っている俺の元に、一人のクラスメイトが恐る恐る近寄ってきて、こう尋ねてきた。 「アカ、あのさ……お前が飯塚と付き合い始めたって、マジ?」 「……は?」  俺が聞き返したのと、俺の後ろのドアから、午後ティー売り切れてたとかマジ最悪なんだけど、と友達と話しながら佑太郎が入ってきたのは同時だった。俺は気付けば、呑気にサイダーのキャップを外そうとする佑太郎に詰め寄っていた。 「……お前、俺がいない間に何言ったんだよ」 「え? 何って? ……あっ、アカと付き合い始めたって宣言した!」 「……お前どこまでバカなら気が済むの⁉︎」  ――佑太郎はあの日、俺にこう言ったのだ。 『じゃあさ、アカ、俺と付き合おうぜ! お互い好きになれば問題なくね? まあ、色々手順が逆だけど……細かいことは気にしないでさ! 責任取って、俺がちゃんとお前を幸せにする。どーよそれ! 完璧だろ!』  俺はもちろん反対して、家から追い出した。そしてその後連絡を取っていない――のに、どうしてこうなる? どうしてこいつはここまでバカなんだ? 頭が痛い。もう何も考えたくない。 「え? ちげーの? 俺付き合おうって言ったじゃん」 「言ってた! 確かに言ってたけど! 俺一言でも良いよとかこちらこそとか言った? 言ってないよな? 俺、ふざけんなさっさと帰れってお前のこと家から追い出したよな⁉︎」 「そうだっけ? おっけーされたと思ってた。俺振られたことないからさー、あっこれ初? 初じゃね? やっべー初めて振られた記念日だわ」 「知らねえよ、もう何なのお前……ふざけんなよバカ……」 「まあまあいーじゃん! とりあえず付き合ってから後のことは考えようぜ!」 「何その『とりあえず付き合ってから』って! 嫌だよ! 嫌に決まってんだろアホかお前は! 真剣だろうがとりあえずだろうがお前となんて、絶、対、嫌!」 「えー、そんなにはっきり振らなくてもさーマジ傷付くわー。あっ、もしかして俺が十二股してんのが気に食わねーの? それなら全員昨日のうちに振ったぜ! だからほら!」 「十二股⁉︎ お前やっぱクズの中のクズだな! でも俺はお前が何股してようが俺一人だろうが絶対付き合わねえよ! 分かったらさっさとその宣言取り下げろ!」 「えーケチー」 「ケチじゃねぇ!」  佑太郎と言い争い――と言っても俺ばかり怒っているが――をしていたがふと気付くと、教室中の視線を集めていた。 「……えーと……結局、付き合ってんの?」  傍らのクラスメイトが、ドン引きしたように問いかける。 「もちろん! この通り――」 「この通り、付き合ってないから。こいつが勝手に騒いでるだけ。……いいから佑太郎、一回黙ってろよ……」  頭が痛い。もうこのバカと付き合ってられない――俺はそう悲観しつつ、まだ後ろで何か言っている佑太郎を無視して、自分の席へ向かった。  ――この時の俺はまだ、この嫌がらせのような佑太郎の「付き合ってくれ」アピールが、今後何ヶ月も続くことを、知らなかったのだ。  そしてそれに根負けした俺が、佑太郎と付き合い始めることも。そして、気付けばお互いに好きになっていたことも―― 「――そんなこともあったっけなぁ」 「そんなこともあったっけなぁ、じゃねえよバカ! こんなことになったのは全部お前のせいなんだからな……」  俺が佑太郎の頭を叩くと、「いってぇ!」と大げさに痛がったのち、佑太郎はいきなりキスをしてきた。それも深い方。こいつはいつもこういうことをしてくる。 「……いーじゃん? もう……一年だっけ? まあ結果的にお互い幸せだろ?」 「……うるせえ、バカ」  俺がやっとのことで吐き捨てると、佑太郎は楽しそうに笑って、俺の腰に手を回してきた。 「ほんっとお前素直じゃない。ま、そういうところも好きなんだけどさ」 「あっそーですか。……ってちょ、バカ! 変なとこ触んな! ダメだって――、っぁ……」 「いーじゃん最近ヤってなかったんだしー」 「ふざけんな! 待っ、ダメっ……ん、あぁ……っ」 「あー……やっぱ超エロい。お前煽ってるよな?」 「煽ってねえ! っだから、ゆうたろっ……や、ァんっ……」  ――そしてその後俺が、しょっちゅう盛りまくるこいつに、ずっと悩まされることも。

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