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9ノンケも目覚めるド天然

「……大丈夫か、館野」  今更な感じが否めないが、一応そう声をかけた。  館野はぼうっと俺を見つめると、ぽつりと呟いた。 「……僕、助かったの……?」  改めて見ると、館野は非常に綺麗な顔立ちをしていた。  透明で大きな瞳にすっと通った鼻梁、そして透き通るような白い肌は、大袈裟かもしれないが王子様のようにも見える。  街中に佇んでいれば、それだけで映画のワンシーンになってしまいそうだ。  確かに、これはノンケも目覚めるかもしれない。 「……ああ。少なくともあいつは二度と、お前に手出さないだろうな」  ふと我に返り、そう答えた。 「本当に……?」  そう恐る恐る尋ねる館野に、俺はすぐ頷いた。 「本当に。もしまだ手出すようだったら、俺が本当にボールペンぶっ挿してやるから」  実は、実際にそれをやってみたい、なんてことは口が裂けても言えないが。  真空さんはこのプレイを了承してくれるだろうか。いや、最初はちゃんとした器具を使うべきか。  あれっていくらくらいするんだろうか。兄貴に聞くか。  しかし俺にそんな金、あっただろうか。  財布の中身を考えて心の中でため息を吐いていると、館野は不意にぼろっと涙を流した。 「……え!? そ、そんな感謝することでも……俺、自分のことばっか考えてたし」  慌てて言うと、館野はふるふると首を振った。 「……んな、ことないっ……僕、永島君に脅されてて、それで、ずっとっ……」  ずっと前からレイプされてた、と。それは確かに、辛かっただろう。  俺がそっと抱きしめてやると、館野は俺のシャツをぎゅっと握りしめ、嗚咽を漏らした。  しばらく背中をさすってやると、館野はだんだんと落ち着いてきた。  やがて館野は顔を上げ、赤くなった瞳でふるっと笑った。 「……だから、永島君を謝らせてくれて、ありがとう」  ーー正直、くらっときた。  変なことを考えるな、と心の中で唱えながら、俺も笑い返した。

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