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11ノンケも目覚めるド天然

「あ、そうだ! じゃあ明日から中学校の写真みたいな格好してきてよ!」 「お前、話聞いてたか? 目立ちたくねえの俺は」 「……あ、そっか」  得心したような顔で頷く館野。何だか話が通じない。 「んーっと、じゃあそうだ! 昼休み弁当食べてる時、僕が君のところに毎日押しかける! そしたら外見関わらず目立つから、外見なんてどうでもよくならない? そしたらイメチェンしてきてねっ!」 「お前は阿保なのか!? 目立ちたくねえって言ってんのに本末転倒だろうが! ……まさか、本当にやらないよな?」  慄いて言うと、館野は心配そうな表情を浮かべた。 「駄目? やっぱり迷惑、かな」  そんな表情で、顔色を伺うような声で言われたら、なかなか断れないだろうが。 「……あー、もう勝手にしろ!」  投げやりに言うと、館野は表情をぱっと明るくした。 「やった! 本当に行くからね? 四組だよね? あ、隣だ、近い! でさ……あれ、僕何言おうとしてたんだっけ」  急に、こいつが生徒会長でいいのか疑問に思えてきた。おかしい、全校生徒の前で話す時はもっとしっかりしてそうだったのに。 「この学園、こんな生徒会長で大丈夫かな……」  思わず呟くと、心外そうに館野は言い募った。 「それ、僕が馬鹿ってこと? 違うよ、僕は能天気なの!」  その二つがどう違うのか、俺にはよく分からない。 「にしてと館野、立ち直り早過ぎだろ……」  少し辟易して言うと、館野は何でもないことのようにこう言った。 「うん、明塚君が助けてくれたから。あのまま誰も助けてくれなかったら、僕そろそろ病んでたと思う」  重たい話をそんなに軽く言うな。 「いつから、その……」 「半年くらい前から? 言えないようなエグいこともそれなりにあったなぁ。まぁでも、もう過ぎたことだしいいけどね」  俺はそれを聞いて、思わず絶句した。ーーそれでよく、こんなに明るくいられるな。 「お前さ、何でそんなに明るくいられんの」  少し経ってから思わず聞くと、館野はあっけらかんと言い放った。 「無理にでも笑ってるとそのうち明るい気分になってくる、って話もあるでしょ? だから、明るくしてればそのうち本当に楽しくなるかなぁって」  不意に、こいつが生徒会長な理由が明瞭に理解できた。館野は強い。なかなか他人が真似できないほどに。 「へへ、すごいでしょ? 褒めてくれてもいいんだよ?」  訂正する、やっぱり館野はただの馬鹿だ。 「……あ、僕こっちだから、またね!」  館野は爽やかな笑顔で手を振り、軽やかに駆けて行った。  その次の日から本当に、毎日昼休み、教室に来たのは、また別の話だ。  そのせいで投げつけられる悪意たっぷりの視線に悩まされるのもまた、別の話だ。

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