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8やっぱり誤魔化せない

 俺は部屋まで無言で引きずり込むと、真空さんをベッドに投げ出した。  そして真空さんの顔の横に両手を勢いよくつくと、低い声で尋ねた。 「真空さん、さっき兄貴に何言われてたんですか」  真空さんは顔を赤くしたままで、恥ずかしそうに目を逸らした。  俺じゃなくて兄貴によってこんな顔をしていると思うと、腹の中で熱いものがぐるぐると渦巻くような感覚に襲われた。 「俺には言えないようなことですか」  すると、真空さんはやはり恥ずかしそうに目を逸らしたままだった。  イラっとして真空さんのすぐ横のマットレスを叩くと、びくっと震え、真空さんは顔色を伺うように尋ねた。 「……もしかして、何か怒ってるのか?」  その言葉で、何かが切れた。 「あぁそうですよ怒ってますよ。俺が兄貴に嫉妬しちゃ駄目ですか? 俺が今どれだけイラついて――怖かったか分かりますか? 兄貴に真空さんをとられるんじゃないかってずっと気が気じゃなかったんですよ?」  そこまで矢継ぎ早に問うと、真空さんは 「えっ? ちょっと待って、それっ……」  と戸惑うように呟いた。  自分でも何を言ってるんだと思いつつ、言葉はすらすらと口から流れ出て行った。 「そりゃ、兄貴の方がテクニックは上だし、上手に苛められるだろうし、兄貴の方が垢抜けてるし、本気じゃないんだったら兄貴を選んだ方がメリットはあるに決まってる。  でも、俺は真空さんがいいんです。真空さんじゃないと嫌なんです」  一度息を吐いて、また口を開いた。  ここまで言ってしまったらどうやっても取り返しはつかない。なら、全て伝えてやろう。 「そりゃ、真空さんとは体の関係しかないし、真空さんには小深山先輩がいるのは分かってます。だから、今までは自分の気持ちも誤魔化し誤魔化しやってきました。  でも、やっぱり誤魔化せないです。小深山先輩となら、嫌ですけど何とか納得しようと思ってました。でも俺より後に入ってきた兄貴にとられるのは、絶対嫌です」  俺は真空さんをじっと見据え、誤魔化そうとしてきたけれどいつも思っていて、ずっと言いたかった一言を告げた。  ――普段は寡黙そうで男前な顔をしているのに、すぐ赤くなって照れたりするところ、笑顔が可愛いところ、ドMでどんな言うことも応じてくれるところ、本当は感情豊かで俺の前でよく笑ってくれるところ、全部、全部が愛おしくて、 「好きです、真空さん」  真空さんは顔を真っ赤にしたまま、ふと気が付いたように尋ねた。 「でも平太、お前には会長がいるんじゃ……?」  意外な切り返しで、思わず戸惑う。が、正直に答えた。 「ああ、館野はちょっと前に助けたら懐かれただけです。友達ですよ、ただの」  そう答えると、真空さんは一度目を瞬かせ、不意に笑った。まるで憑き物が落ちたかのような、すっきりとした笑顔だった。 「はは、何だ、ただの友達か。……俺と伊織も友達――いや、幼なじみだ」 「え……つまり」  今その宣言をする、ということは、つまりそれって、真空さんも俺のことが――?  真空さんは、はにかみつつ俺の目を見て、嬉しそうに笑顔を浮かべた。  その笑顔は、今まで見たどんな顔よりも嬉しそうで、綺麗だった。 「……俺も、平太が好きだ」  真空さんの言った『俺も、平太が好きだ』という言葉が、頭の中でぐるぐると巡る。  何度か巡って、ゆっくりと理解してから、じわじわと喜びが湧き起こってきた。  もう、気兼ねをして伝えたいことを伝えるのを控えたり、自戒の念で自分を縛り付けたり、しなくていいんだ。  俺は思わず抱き締めて、耳元で囁いた。 「好きです。真空さん、好きです」 「……待て、恥ずかしいからあんまり言うな……」  真空さんは耳まで赤くして、顔を背けた。その仕草がすごく愛おしく思えて、俺は真空さんのうなじにキスを落とした。  ぎりぎり髪で隠れる場所にキスマークを付けてから、俺は尋ねた。 「真空さん、結局兄貴に何を言われてたんですか?」  真空さんは恥ずかしそうにぼそぼそと答えた。 「その……『平太は基本的に淡白で、他人にほとんど興味もないし執着もしないのに、君には随分と執着してるみたいだから愛されてるね』っていうのと、『君のことは少し気に入ったんだけど、邪魔はしないし手も出さないから安心して』みたいなことを」  何だ、と拍子抜けした。その後、ゆっくりと温かい気持ちが心を満たしていった。  どうしようもないほど遊び人で人をからかうのが好きなイラつく兄貴でも、こういうことがあるから結局嫌いになれない。 「じゃあ、何で一回兄貴は真空さんの首の後ろに手をやったんですか?」  聞くと、「ああそれは」と言いながら真空さんは、俺がさっきキスマークを付けた側とは反対側のうなじに手をやった。 「ここにキスマークが付いてたから、それを指摘されてた」 「……え? いつ付けたっけそんなの、見せて下さい」  付けた記憶がなかったが、それを見た後、うっすらと記憶が蘇ってきた。  無意識のうちにつけた気が、しなくもない。……衝動とは怖いものだ。 「俺も言われてから気付いたんだが……嬉しくて」  首に手をやったまま、小さく微笑む真空さんを見て――正直、我慢の限界がきた。 「真空さん、今日泊まっていって下さいよ。……俺、本当に我慢できないから、このままだと多分、真空さんが動けなくなるまで犯しちゃいます」  真空さんは驚いたように俺を見、小さくこくりと頷いた。

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