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11恋愛恐怖症の治し方
「……あ、おはようございます」
ようやく真空さんが身じろぎしたので、俺は微笑んで髪を撫でた。
真空さんは目を薄く開き、のろのろと頷いた。
「昨日あんなに乱れてたにしては、起きるの早くないですか?」
「……今、何時」
眠そうに目を瞬かせて、真空さんは問いかけた。
「七時半です。俺も、ついさっき起きたんですけどね」
真空さんはぼうっと考えるような仕草を見せ、少し驚いたような色を見せた。
「いつもだったら、遅くとも五時に起きるのに」
どうやら、それなりに疲れていたらしい。
真空さんは何かを考えるように天井を見上げ、のろのろと俺に顔を向けて訊いた。
「……俺、後処理した記憶がないんだが」
「ああ、後処理なら俺がしときましたよ。真空さん、気失っちゃったんで」
真空さんは「そうだったか?」と首を傾げたが、徐々に顔を赤く染めていった。
「思い出しましたか」
顔を赤くして、真空さんはこくりと頷いた。
「真空さん、可愛かったです」
抱き締めて吐息混じりに耳元で囁くと、真空さんはぴくっと震えた。
「耳弱いですか」
聞くと、真空さんは小さく首肯した。
「何か、ゾクゾクするぅ……」
むらっと来てしまい、覆い被さってぴちゃ、と耳を舐めると、真空さんは「ぁんん……」と微かに声を漏らした。
そのまま音を立てるように舐め続けると、真空さんはふるふると首を振った。
「待て、朝からは、体力持たない、からっ……はあぁ……」
「真空さんが煽るのがいけないんですよ。これ、気持ち良いんですよね?」
「気持ち良い、けどっ……無理ぃ、勃ちそうぅ……」
「っはは、相変わらず――」
淫乱ですね、と続けようとしたその時、がちゃりと音がした。
「……平太、盛り過ぎ」
そこには、ドアノブを片手で開け、呆れ顔で笑う兄貴が立っていた。
せっかくいいところだったのに。俺は一つ舌打ちをかまして睨んだ。
「何の用だよ兄貴」
兄貴は俺の顔を見て、辟易したように笑った。
「別に邪魔したくてした訳じゃないっての。俺の財布知らない? どこにもないんだけど」
「は? そんなの――」
知らないって、と言おうとしながら辺りを見回すと、何故か俺の机の上に財布が置いてあった。
「……そこ」
指差してやると、兄貴はぱっと表情を明るくした。
「うわ本当だ! 何でそこにあんの」
「いや知るかよ。さっさと出てけ、真空さんを厭らしい目で見るなヤリチン」
「お前は過保護な保護者か」
呆れ顔に戻り、兄貴はそう突っ込んでから、肩をすくめて部屋を出て行こうとした。
が、思い出したように振り向いて、俺に何気なくこう言った。
「もう止めるけどね、そういうの」
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