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1重なり合うトライアングル
「……平太、お前どうしたの」
加賀美は今日一日中、ずっと気持ち悪そうな顔をしていたが、昼休み、耐え兼ねたように俺に問いかけた。
「どうした、って何がだ?」
心当たりが全くなく、そう尋ねた。すると加賀美は「自覚なしかよ……」と呟いた。
「お前さ、ずっと今日にこにこしてたじゃん? お前そんなキャラじゃないだろ、マジキモい」
「キモいって酷いよそりゃ。何かいいことでもあった?」
加賀美が毒を吐く傍ら、柔らかく笑みを零して館野が聞いた。
いいこと、か。そんなもの決まってる。真空さんのことだ。
だがそんなことを言えるはずもなく、適当にお茶を濁した。
「まあ色々?」
そう肩を竦めると、加賀美は眉をひそめた。
「ほらぁその顔。その『今すごく幸せです!』って顔、お前には似合わねーぜ?」
「じゃあどんな顔だったら似合うんだよ」
「『この世の全てに興味がない』顔」
随分と酷い言われようだ。
「無表情が似合うのは珍しいし、いいと思うよ?」
館野は、その言葉が全くフォローになっていないことに気付いているのだろうか。
いや、気付いていないな。館野の笑顔には邪気がない。天然か。
「で、どうしたんだよ」と聞く加賀美を無視するように、俺は弁当をかっ込んだ。
「何だよ、俺にも言えないようなことかよ」
そう加賀美がぼやく。
言える訳ない。第一「俺、前園先輩と付き合ってんの」なんて言ったらどうなる。どう考えても頭を疑われる。疑われなかったとしても、物凄く騒がれる。
そう考えながらぼうっと窓の外を見ていると、不意に外を歩く真空さんと目が合った。
途端に笑顔になった真空さんに微笑み返すと、加賀美にどつかれた。
「おい、何笑顔になってんの。何見てたんだよ」
「は、別にいいだろ。俺が笑っちゃ悪いかよ」
「そうじゃなくて、理由聞いてんだろ理由」
「お前には関係ねえ」
言う訳にもいかず、そう誤魔化してからもう一度窓の外を見ると、真空さんではなく小宮山先輩と目が合った。
小深山先輩は、遠くからでも分かるほど俺を睨みつけていて、ゾッとした。
まさか、バレたのだろうか。俺とが付き合っていることが。
その不安は、杞憂に終わらなかった。
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