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10重なり合うトライアングル
それからはずっと、明塚君のことが好きだった。
一緒にいる時間が増えれば増えるほど、新しい一面がどんどんと見えてきて、その度に好きになっていた。
明塚君は真面目で大人しい生徒なんかじゃなく、案外適当ですごく面倒臭さがりで、淡白に見えて断り切れないお人好しなところもあって。
どこが好き、とかじゃなくて、もう全部が好きだった。
いつか付き合えたらいいな、なんて漠然と考えては赤面するような、そんな日々だった。
恥ずかしくてそんなこと、言えるはずもなかったが。
でもいつか、もっと仲良くなったら伝えようとそう思っていた。
なのに。
「明塚君と仲が良いのに知らなかった? 付き合ってるんだよ、真空と明塚君は」
血の気が引いて、その癖心臓は嫌にどくどくと鳴った。信じたくなくて、叩きつけられた事実が飲み込めなかった。
嘘であって欲しかった。だって、明塚君はそんな様子なんて一度も見せたことがなかった。
「館野君が明塚君を退学させるのは見過ごせない、っていうのならこうしよう。君が二人を別れさせる手伝いをしてくれるなら、僕は彼に何もしない。どうかな? 君にとっても好都合だと思うんだけど」
企むように笑う小深山先輩。
もしかしたら小深山先輩は、僕が明塚君を好きなのを知っているのかもしれない。
それで、明塚君と僕が付き合えば、都合がいいと思っているんだろう。
確かに、こんなことを言っちゃ駄目だとは分かっているが、明塚君が別れてくれるなら僕も嬉しい。
さらに明塚君に小深山先輩が何もしないのなら、好都合だとも思う。
でも、どう考えても無理やり別れさせるのは駄目だ。明塚君も、そしてきっと前園先輩も傷付く。
だが、そんな綺麗事を言うな、と囁く声も聞こえる。明塚君に悪く思われたくないのなら、ここで一度断ってからその話を受ければいい、と。
しかし、明塚君を傷付けてまで付き合ったとして、それで僕は満足なのだろうか。
「……館野」
明塚君が僕を呼んだ。縋るような声だった。
ゆっくりと明塚君の方を振り向くと、明塚君は声とは裏腹に、信頼しているような目で僕を見ていた。
ずくん、と胸が鋭く痛んだ。――そんな顔をされたら、裏切れるはずがない。
もし裏切ったのが明塚君に知れたとしても、明塚君は僕を責めないかもしれない。でもきっと失望して、もう二度と僕を信頼してくれないに違いない。
それは何よりも辛い。それに、明塚君を酷く傷付けることになる。それだけは絶対に嫌だ。
どうすればいいのか、簡単なことだ。僕が我慢して『友達』でい続ければいい。そうしたら、明塚君は傷付かない。
明塚君のためなら、ずっと『友達』でい続けてやる。
「僕は明塚君の『友達』です。だから、明塚君は裏切れません」
小深山先輩は興醒めしたような様子で、問いかけた。
「本当に? 君はそれでいいんだ?」
「はい。僕はあくまで明塚君の友達……友達、です」
自分に言い聞かせるように、きっぱりと告げた。
「ふうん……」と小深山先輩は呟くと、品定めをするかのように僕を見た。なんだか見透かされているようで、冷や汗が垂れた。
「いいや、君を大っぴらに敵に回したら面倒だ。この方法は諦めよう。でも気が変わったらいつでも」
そして小深山先輩は、拍子抜けするほどあっさりと引いた。
「気は変わりません。僕は明塚君の友達ですから」
友達なんか嫌だ、僕は明塚君が好きなんだ――そう思う気持ちを、必死に抑え込むように、強気な口調で言い張った。
一体僕は、このまま好きでいていいのか、それとも諦めるべきなのか。
分からなかったけれど言えるのは、この恋は望みがないこと、それと、それでも僕は諦められないことの二つだった。
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