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3決して覚めない夢であれ

「真空さん?」  真空さんはやっぱり俺の家の前で小さくうずくまっていて、携帯を見ていた。声をかけると、ぱっと顔を上げてみるみるうちに表情を明るくした。  急いで立ち上がった真空さんを俺はぎゅっと抱き締めて頭を撫でた。 「待たせちゃってすみません。それと、ずっと会えなかったのもすみません」 「いい、会えたから」  そう囁くと、真空さんはふるふると首を振った。真空さんの口元は柔らかく緩んでいた。  それを見て、気付けば俺は口付けをしていた。 「はふ、んっ……う、ぅんんっ……」  微かに漏れ聞こえる嬌声が、興奮を煽る。歯止めが効かなくなり、満足して唇を離した頃には、真空さんの瞳は快楽に潤んでいた。 「気持ち良かったですか、真空さん?」  尋ねると、赤く火照った顔で真空さんは僅かに頷いた。そして、小さく呟いた。 「でも、その……腰、抜けそう」 「キスだけで、ですか?」  耳元で吐息混じりに囁くと、火照った顔を更に赤くして、頷いた。真空さんは自分の、無自覚で煽る癖に気付いているのだろうか。  もう一度口付けをしようと頭を撫でたその時、真空さんが俺の後ろを驚いたように見、慌てて目を逸らした。何事かと思って俺も振り向くと――小深山先輩がそこにいた。  タイミングの悪さに舌打ちをしたが、すぐに思い直す。  小深山先輩と俺では、学校の立場も学年も、およそ考え付くこと全てで太刀打ちができない。なら俺ができるちょっとした仕返しは、真空さんといちゃついているのを見せつけることくらいじゃないだろうか。  だから俺は、自分の唇を示すように指で触れ、真空さんに笑いかけた。 「真空さんから、して下さい」  真空さんは目を見開き、気兼ねするように小深山先輩を見たが、おずおずと顔を近付けた。  唇が触れてから貪るように激しく舌を絡ませると、最初は躊躇って声を抑えていた真空さんだったが、徐々に甘い声を漏らし始めた。 「んぅぅっ……んっうぅん……ふぅっ、んっ……」  俺の背中に回された手に、力が入る。いつしか真空さんと俺は、小深山先輩がいるのを忘れてキスに没頭していた。  すると突然、肩に痛みを感じた。あまりに急で驚いて、俺は絡めていた真空さんの舌を噛んでしまった。んっ、と濁った声を真空さんが上げる。  振り向くと、殺意の込もった視線で俺を睨んで引き離そうとする小深山先輩がいた。 「どうしました、小深山先輩? 何か問題でも?」  白々しく問いかけると、小深山先輩はにこりともせずに言い放った。 「僕の真空なんだけど」 「それはこっちの台詞ですよ、俺の真空さんです。ちゃんと付き合ってますし」 「たかが数ヶ月一緒にいただけで? それだけで何いい気になってるの?」 「小深山先輩こそ、たかが一幼馴染でしょう? 俺は恋人ですから」  そのまま睨み合うと、真空さんは、いい加減にしてくれ、とため息を吐いた。 「伊織、何回言えば分かるんだ。俺はお前のものじゃないし平太と付き合ってるって」  小深山先輩は理解し難いような顔で首を傾げた。自分の考えを信じて疑わないようだ。 「何で? 僕と真空、ずーっと一緒にいるでしょ。今までも、これからも。真空こそおかしいよ、そんな奴といるのは」  呆れたようにまたため息を吐き、真空さんは俺に、家の中へ入れ、と目配せをした。 「何で? 何で明塚君なの? おかしいよ絶対! 本当は好きじゃないのに騙されてるんだって!」  ドアを開けた時、そう声が聞こえた。真空さんと小深山先輩を二人にすることになるので少し入るのに躊躇ったが、やっぱり入ることにした。 「騙されててもいい、平太になら。……それに、声を聞いただけでも相手のために何でもしたくなるのは、好きってことじゃないのか?」  ドアを閉める直前に聞こえた真空さんの言葉が、悶えるほどに可愛く思えた。

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