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1遊園地とクレープと
何となく落ち着かなくて俺は、意味もなく風景を眺めた。
俺は今、平太の家の玄関の外にいた。俺が出かける支度をしている頃平太は何かを探していて、俺の支度が終わった頃にようやく支度を始めていたので、平太は俺に『先に外で待っていて下さい』と言ったのだ。だから、一人で外にいた。
「待たせちゃってすみません。行きましょ」
そわそわとしながら待ってしばらくすると、少し申し訳なさそうな表情で平太が扉を開けた。その平太の姿を見て俺は、思わず言葉を失った。
「……どうしました? 俺、何か変ですか?」
「っ、な、何でもない」
声をかけられて我に返り、俺は顔を逸らした。遅れて、顔が熱くなる。
平太の格好は、良い意味で予想外だった。つまり、想像していたよりもずっとお洒落だったのだ。恐らく、平太の友人が今の彼を見たら「誰だよお前?」と聞いてしまうだろうほど、普段の大人しそうな彼とはかけ離れていた。
髪型はワックスでスタイリングしてあり、しかし気合が入っている感じはしなかった。服装は、白いサマーニットと裾をロールアップした紺色のパンツに小物を合わせていて、ファッション誌から抜け出してきたようだった。
直視ができなかった。ずっと見ていたら心臓がおかしくなってしまいそうで。
「……真空さん、何だかいつもに増して無口じゃないですか?」
電車の中で吊り革に掴まりながら平太が尋ねた。向かい合って立っていたのだが、どうしても顔が直視できずに窓の外を眺めるふりを俺はしていた。
「そうか?」
「はい。それになかなか目、合わせてくれませんし」
シラを切ったが、平太にはそれもバレていたようだ。
しかし恥ずかしくて本当の訳は言えないし、そう思っていると、不意に平太が呟いた。
「……楽しくありませんか」
驚いて横目で顔を伺うと、平太の瞳は少しだけ憂いを帯びていた。すぐに否定すると、じゃあどうしてですか、と真剣な眼差しで見つめられた。答えようとは思ったが、どうしても顔が見れずに目を逸らした。
すると、
「――答えるまで離れません」
電車が大きく揺れたのに合わせて吊り革から手を離し、体勢を崩した風を装って平太は、俺の顔を挟むように扉に手をつき、俺の身動きを取れなくした。俗に言う壁ドンだ。
「近い、からっ……」
これではどう目を逸らしても、平太の顔が視界に入ってしまう。小さく抗議したが、平太は「何を今更」と取り合わなかった。どころか、
「もっとすごいこといつもしてるのに、なに手繋いだこともないカップルみたいなこと言ってるんですか」
いけしゃあしゃあとそう言ってのけた。
「答えるまで離れません、って言っても答えません?」
それでも恥ずかしくて言い出せずにいると、平太は一つため息を吐いた。
かと思うと、さっきよりもさらに平太の顔が近くなった。平太で視界がいっぱいになり、目を逸らす云々の問題ではなくなった。
「これでも?」
今度は俺の顔の横に肘をつき、平太は悪戯っぽく笑った。心拍数がどんどんと上がり、苦しいくらいに心臓が鳴った。
「早く答えないと、このままキスしますよ?」
いつの間にか平太の目がご主人様の目に変わっていて、ゾワッと痺れが背筋を撫でた。そんな目をされたら、拒否できるはずがない。
「ええと……いつもと平太が雰囲気違うから……」
「違うから?」
囁いた掠れ声にも嗜虐的な色が混ざっていて、また痺れが背筋を走った。
「その……すごく格好良くて、直視、できませんでした……」
消え入るような声になったが、何とか答えた。恥ずかしくて堪らなくて、顔が熱くなるのが自分でも分かった。
すると平太は何故か、またため息を吐いた。
「……あんたって人は本っ当……」
かと思うと平太は、更に顔を近付け、軽くついばむように口付けをした。
顔が離れて、平太が吊り革に掴まり直してから、その事実に気付いて俺は何も言えずに俯いた。恥ずかしくて、でも嬉しかったから。
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