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3遊園地とクレープと

「えぇ、ちょっと絵美ぃ、それサービスしようって言ったのあたしじゃん? なに自分の手柄みたいにしてんの」  もう一人の女の店員が少しむくれたように割り込んできた。そして茶髪をゆるく巻いた彼女は、にこにことカウンターに乗り出してきた。 「お兄さんさ、あたしと連絡先交換しません? そしたらもう一個何かサービスしちゃうんだけどなぁ」  随分と積極的な女の人だ。彼女は顔は良いので、それを自分で分かっていて積極的に出ているのかもしれない。 「あまりサービスしてもらっちゃうのも悪いですよ。それにお姉さんくらい可愛いなら、相手がたくさんいるでしょ? そこに俺が割り込むのも野暮じゃないですか」  対する平太もにこやかにそう答えた。愛想笑いか、それとも本当に嬉しいのか。しかし可愛い女の人に言い寄られて悪い気はしないだろう。そう思うと何だか胸の奥がもやもやとした。  平太が彼女に対して可愛いと言ったのも気に食わない。俺に対して言う『可愛い』も軽い気持ちで言っているのか、と勘繰ってしまうから。 「やだ、可愛いなんて照れますよぅ。野暮なんかじゃないですよ、お兄さんみたいなイケメンで褒めるの上手な人が彼氏だったら、あたし嬉しいなぁ。ね、連絡先、交換しません?」  更に言い寄ってくる彼女に、平太は「ええと」と頰を掻きながら宙を見上げた。まさか検討しているのだろうか。不安だったが、平太を信じるしかなかった。 「ちょっと麻友、迷惑かもしれないでしょ?」  黒髪の彼女がたしなめるように言うが、茶髪の彼女は気にも留めない。 「絵美だってカッコいいよねって言ってたじゃーん。絵美も聞けばよくない? てか絵美も連絡先聞きたいんじゃないの?」 「それはっ……そう、だけど」  そして黒髪の彼女でさえ、「もしご迷惑でなければ、連絡先、教えて頂けませんか?」と上目遣いで問いかけた。  平太はそれを見てため息を吐き、俺の顔をちらりと見て言った。 「すみません、そういうことしちゃうと、この人が怒るんで」  反射的に平太の顔を見ると、平太は「心配しないで下さい」と耳元で囁いた。平太は全て分かってくれていた、と俺は思わず安心した。  黒髪の彼女は察したのか、怯んだように黙り込んだが、茶髪の彼女は気付かないようでなおも言い寄ってきた。 「えぇー。……あ、それなら! あたし達もうすぐでシフト変わるんで、一緒に遊園地回りません? ほら、男二人で回ってても楽しくなくないですか?」 「そんなことないですよ。楽しいです」 「そんなこと言わないで下さいよ、奢らせるとかしませんからぁ。お兄さんと一緒にいたいだけなんです!」  察さずに更に重ねる彼女に、平太はわずかに笑みを崩した。 「別に俺達がいなくても、そっちのお姉さんと二人で回ればいいんじゃないですか?」  平太の柔らかい口調がほんの少し固くなった。黒髪の彼女は「め、迷惑だろうし止めようよ」と裾を引くが、茶髪の彼女は意に介さない。 「えぇ、絶対男二人で回るより女の子も二人いる方が楽しくない? もう一人のお兄さんもイケメンだしさぁ、誘わないともったいないって!」  小声で話したつもりらしいが、こちらにもしっかりその言葉は聞こえていた。それを聞いて平太の口元が一度引きつった。  そして何を思ったか、平太は営業スマイルを浮かべた。 「すみません、誘って頂けるのはとても嬉しいんですが」  そして、彼女に見せつけるように俺の肩を抱き、営業スマイルのまま言い放った。 「恋人がいるので」  呆気に取られた彼女を尻目に、平太は笑顔で一礼し、俺の手を握って引いた。

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