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8遊園地とクレープと

「疲れました?」  気を遣うように尋ねる平太。繋いだ手から伝わる温もりが嬉しくて、俺は微笑んで首を振った。 「なら良かったです」そう微笑み返す平太に、俺は尋ねた。 「どこに行くつもりだ?」  しかし平太は「後でのお楽しみです」と返すのみ。  平太の向かう方向には、あまりめぼしいアトラクションはなかったはずだ。俺はそう考えて内心首を捻った。  俺のことをちらと見ている平太に気付き、首を傾げると、平太は微笑んだまま呟いた。 「可愛いな、って思ったんです。今の笑顔も、さっきの喘ぎ声も」  一気に顔に血がのぼる。恥ずかしくなって俯くと、平太はそれを見て笑った。 「着きました」  平太がそう言った場所には、アトラクションは何もなかった。だけど、地形の関係か小高い丘のようになっていて、観覧車ほどではないが遊園地が見渡せた。  いつの間にか日が沈んで、辺りは薄く茜色に染まっていた。空は、茜色と青色とが混ざって、綺麗だと思った。 「綺麗ですよね、ここ。知ってる人もあんまりいないので、人も少ないし」  平太は手を離した。俺は頷いた。 「知ってます? この遊園地、八月頃に花火大会やるんですよ。だから人がすごいんですけど、ここは遊園地の外れだし、知ってる人も少ないしで、花火が綺麗に見えるんです」  平太は空を見たまま呟いた。何となく平太の言わんとしていることが分かって、俺は黙った。  平太は俺を振り向いて、優しく笑った。逆光のせいか、平太が眩しく見える。 「今度、ここで花火を見ませんか」  一緒にいることが前提の言葉に、嬉しくて、何を言っていいか分からなくなった。笑みが溢れる。  俺が何度も頷いたのを見て、平太は安堵したように笑った。  あと、と付け加えるように呟くと、平太は空を見ていて下さい、と言いながら鞄の中に手を入れた。 「振り向かないで下さいよ」そう言われると、無性に振り向きたくなってしまう。だけどその気持ちを必死に抑えて、平太の気配を後ろに感じても、じっとしていた。  すると不意に、首に冷たい感触を感じた。ネックレスだった。そして、平太の囁きが聞こえた。 「本当は首輪が良かったんですけどね。さすがに四六時中着けさせる訳にはいきませんし。なので、代わりです」  そこにあったのは、錠前をかたどったデザインのものだった。今日一日中平太が着けていた、鍵をかたどったデザインのものと対照的だ。  指先で軽く触れる。これはきっと、俺が平太のものだっていう証だろう。 「真空さん、好きです」  その言葉で心が溢れた。不意に、幸せだと切に感じた。 「……俺も、好きだ」

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