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3気付いた気持ちと変わらない関係
「ここ、だよな?」
「ここ、だよね?」
俺と館野は互いに顔を見合わせて、頷いた。青い屋根だし、言われた通りに来たし、間違いない、はずだ。
意を決して俺がチャイムを鳴らすと、しばらくして一人の男の人が呆れながら出て来た。
「また? 毎日毎日健気な――」
彼は俺たちの顔を見てアテが外れたように「違った」と呟くと、「平太の友達?」と問いかけた。
「はい。僕が館野といって、こっちが加賀美です。それで、あの、あなたは……」
俺がぼやぼやしているうちに、館野がさっさと自己紹介して質問していた。
「俺? 平太の兄の誠人だよ」
そう言うと、彼はドアを開けたまま「平太ぁ、館野君と加賀美君が来たけど、上げる?」と声を張り上げながらドアの内側へ引っ込んだ。
「……やっぱ、お兄さんも格好良いんだね」
こそっと館野が言う。確かに、似ていた。その上垢抜けていて、明らかに女子受けがいいだろう容姿だった。
平太ももう少し見た目に気を遣ったらモテるんだろうな、と浮かんだが、わざとそうしていると言っていたのを思い出す。
「入って。平太は階段を上がって手前にある部屋で寝てるから」
彼は人の良さそうな笑みを浮かべ、中へ引き入れた。館野と俺はそれぞれありがとうございます、と言って中へ入ったが、館野はふと尋ねた。
「あの……出てくる時に言ってた『また』ってなんですか?」
それが何なのか、察しがついているはずなのに、館野は問う。彼は何気なく答えた。
「ああ、平太が学校休み始めてから毎日、真空君が家に来るから。また真空君かなって思ってね」
横目で館野を伺うと、館野はそっと唇を噛んでいた。俺はなんて声をかければいいか、分からなかった。
「どうしたんだよ、二人とも」
部屋に入ってすぐ、明塚は掠れた声で尋ねた。夏だというのに明塚は、ブランケットを羽織っていた。
「見舞いに来ちゃ悪りーかよ」
そう言い募ると、いや嬉しいけど、と明塚は言う。それを聞いて、館野が少しはにかんだ。
「明塚君、大丈夫?」
心配げな館野に明塚は頷き、熱もだいぶ下がってきたし、と前髪を上げて額を近づけた。
近付けられた館野は少し驚いて、そろそろと額に手を乗せた。心なしかその頰は赤い。どこか胸が痛んだ気がした。
「でも、ちょっと熱いよ?」
「それでも下がった方。一昨日辺りまでは八度五分近くあったし」
館野は目を見開いた。明塚はそれを見て、でも何とかなってるし大丈夫、と付け加えた。
「一応お見舞い持ってきたんだけど……いる?」
館野が取り出したのは、来る途中のスーパーで買った、紙パックのりんごジュース。明塚は微笑むと、ありがとう、と呟いた。館野はそれを聞いて、本当に嬉しそうに笑った。何だか面白くなかった。
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