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5気付いた気持ちと変わらない関係

「もったいぶらずに教えろって」  そう眉をひそめると、「こういうの言いたくねえんだけど」と頭を掻いて、明塚は言った。 「……館野さ、俺のこと好きだろ? だから、館野の前で真空さんの話は極力したくないんだけど」  俺は絶句した。  館野が明塚のことが好きなのは、相談されていたのでもちろん知っていた。それに驚いたのではない。そのことを、明塚が当たり前のように知っていたことに驚いた。  館野はバレたくない、と何度も言っていて、逆に明塚は気付いたそぶりも見せなかった。だから、明塚は全く気が付かずに過ごしているものだと思っていた。 「……気付いてたのかよ」  ぼそっと言うと、明塚は「こういうの慣れてるから」と決まり悪そうに答えた。 「こういうのって?」 「他人に好きになられんの。友達にも何度か好かれたことあるし」  明塚の表情がもし、弱り切った表情でなければ、こんなに嫌味な奴はいないと憤ったことだろう。だけどその表情から、明塚は俺の感じたことのない苦悩を背負っているのだと感じた。 「いつから、気付いてた?」  恐る恐る問うと、明塚は思い出すように宙を見た。 「小深山先輩に別れなかったら退学させるって脅されてた時に、館野が来てくれたことがあったんだけど、その時はまだ違うだろって思ってた。だけどその後、一緒にいたら気付いちゃって」  だから大体、数週間前かな、と明塚は呟いた。嫌がらせが始まった辺りの時期だった。だけど、明塚の態度にはほとんど変化がなかった。 「聞いて後悔したろ? これから館野の相談とか聞くの、辛いだろ」 「……だな」  思っていたことをずばり当てられて、俺まで苦い顔になった。 「お前、館野とどう接するつもりなんだよ」 「どう接する、って、今まで通り仲の良い友達として」明塚は宙を見上げたまま、自嘲気味に笑った。「すげえずるい選択だけどな」  俺はやっぱり、何を言えば良いのか分からなかった。自分の頼りなさを痛感しながら、結局は当たり障りのないことを言った。 「そうかもしんねーけど、館野もその方が嬉しいと思う」  だよな、と頷いた明塚だったが、それが分かっているからいつも通り接していたんだということは分かっていた。 「で、加賀美さ――」明塚は何かを言いかけたが、首を振って無理やり言葉を切った。「やっぱ何でもねえ」 「お前さ、それが一番気になる言い方だってこと気付かねーの?」  明塚はごめん、と謝りながら両手を合わせたが、俺は教えろよ、と詰め寄った。  明塚はさらに言いにくそうに唇を噛む。だが、観念したように俺に問いかけた。 「加賀美さ、気付いてねえの?」 「何に?」 「お前自身についてのこと」  意味が分からなくて首を傾げる。明塚は眉を寄せ「そこまで俺に言わせる? お前気付いたら本当に後悔するぜ?」と言いたくなさそうだった。 「後悔してもいいから言え」  そこまで言うと、本気でため息を吐いて、明塚は答えた。 「お前さ、館野のこと好きだろ」

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