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6気付いた気持ちと変わらない関係
「馬っ鹿じゃねーの、男同士だろ。俺はそういう趣味ないっての」
思わず笑い飛ばすが、明塚は真剣に俺を見据える。
「本当にそう言い切れるか? ……俺だってそりゃ、俺が恋愛なんてありえねえ、ましてやあんな先輩なんて範囲外、って思ってたけどこうなったぜ?」
明塚は一度言葉を切り、語りかけるように続けた。
「顔を見るだけで胸が苦しくなる、なんて大袈裟なもんじゃなくていいんだよ。笑顔を見ると嬉しいとか、ふと可愛いなあって思うとか、自分以外の人に好意を寄せてるのが気に食わない、とか……あるだろ?」
明塚は、ないならそれでいいんだけどな、はたから見ると恋してるみたいに見えんだよ、と呟いてから、俺の目を覗き込んだ。
恋なんてありえないと思っていた。
館野は男だし、俺と館野は友達だ。館野は学園中の人気者で、平凡な俺とは釣り合いがとれない。館野は明塚が好きで、俺が入る隙なんてない。
『加賀美君、おはよう!』
毎朝必ず笑顔でされる挨拶を、待ってたりなんかしない。
『しょうがないなぁ、勉強教えてあげるよ』
結局自分は後回しのお人好しな館野に、癒されてなんかない。
『あれ! スマホがどっかいっちゃった! どうしよう……あ、ポケットに入ってた。あはは』
しっかりしていそうで変なところで抜けてる館野が、可愛いなんて思ってない。
『明塚君、何で先輩が好きなんだろう。僕じゃ駄目なのかな……』
寂しそうに呟く館野に、苛々なんてしてない。
好きだなんて、思うはずがない……はずだった、のに。
「好き……かも、しれねー」
顔を覆って、呟いた。館野のことを思い出せば思い出すほど、心拍数が上がる。考えれば考えるほど、好きだと感じる。
好きだと疼く切なさと、叶うはずがないという諦めと、それでも好きだという苦しさが、今まで否定していた分、一斉に俺を苛む。
明塚は無言だったが、しばらくして静かに口を開いた。
「もしお前が、館野が俺を想ってるのが気に食わねえ、俺には先輩がいるんだからさっさと振ってやれ――そう思うんだったら、そうするけど」
しばらく間を空け、続けた。
「館野は多分、助けてもらうのに弱えんだよ。俺を好きになったのだって多分、襲われてたところを助けたからだし。だから、振られたところを慰めれば両思いになれるかもしんねえし」
思わず顔を上げると、明塚は真剣な顔で、どうする、と問いかけていた。一瞬心が揺らぐ、が、すぐにかぶりを振った。
「自分のためにわざわざ館野を傷付けるなんて馬鹿なことしねーよ」
明塚はすぐに破顔した。
「お前ならそう言うと思ってた」
こいつには敵わないな、俺はそう不意に感じた。
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