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1好きって言うだけ

 頭の芯が、麻酔から覚めた直後のように鈍く痺れ、鈍痛がした。視界がぼやけてぼうっとする。俺は昨日と同じように額に手をやり――ため息を吐いた。  とにかく測ってみないことには始まらない、とベッドから起き上がると、眩暈がしてしばらく動けなかった。  参ったな、と俺は思わず呟いた。  熱が全く下がっていない。一日休めばすぐに下がるものだろうと、たかを括っていたらむしろ、上がってしまったかもしれない。  今日学校は無理だと判断したので、学校に電話をかけ、加賀美と真空さんに行けないと連絡して……そこで意識がふっと途切れた。 「……目が覚めたか」  目を開けると、安心したような表情の真空さんがいた。夢かと思い、ぼうっと真空さんを見ていると、真空さんは少し弁解するように言った。 「すまん、玄関の鍵が開いてたから勝手に入ってきた」  少し意識が明瞭になってきて気付いたが、首元がひんやりと気持ち良い。氷枕か、とあたりをつけた。 「この、氷枕……」  声を出して初めて、喉がいがらっぽく痛いことに気が付いた。真空さんは心配げに俺を見ながら、「俺が用意した」と頷いた。 「それより、何か飲めそうか? スポーツドリンクがあるが」  真空さんの差し出したコップを受け取るため起き上がろうとすると、衣服と肌が擦れ、悪寒がした。その上、目が熱く痒い気がする。  動くと寒気がするなんて相当重症だとは思ったが、余計心配をかけるだけなので黙っていた。 「飲めるか?」  スポーツドリンクぐらい飲めるだろうと口に含んだが、喉が痛くて一口分飲み込むので精一杯だった。  きついかと問われ頷くと、水分を補給しなきゃ熱も下がらないから、少し落ち着いたらちゃんと取れ、と真空さんは言った。 「喉が痛いだろう。それから目も痒いはずだ。目は掻いても良くならないから、目薬を差しておけ。家の中を探して見つけた目薬はここに置いておくから。喉の痛みだが、マスクをしておけば多少和らぐと思う」  ベッドの前の小さなテーブルに目薬を置き直すと、真空さんは机の上に置いてあったマスクを持ち、渡した。  何故俺は言っていないのに症状が分かるのか、マスクをしながらそう疑念を込めて真空さんを見た。すると真空さんはそれを察して答えた。 「平太の病気が何だかは見当がついている。夏風邪の一種だ。安静にしていれば大したことはない。一週間くらいで治るはずだ」  驚いて目を僅かに見開くと、真空さんは何気ない調子で言った。 「医学部志望だからな。大抵の病気と症状は覚えてある」  それを聞いて、思い出した。真空さんの父親は大学病院の院長であることを。でも、真空さん自身も医学部志望とは知らなかった。跡を継ぐつもりだろうか。  掠れた声でそれを問うと、真空さんは首肯した。 「ああ。だが親の七光りとは言われたくないから、今から努力はしているが」  だから成績も良いのか、と思い至る。もしかしたら真空さんは、頭が良いのではなく、努力を重ねてこうなっているのかもしれない。 「……俺のことはいいから、寝てろ」  それも問おうか、と考えていると、真空さんは苦笑して俺の額に手をやった。 「熱、かなりあるぞ。寝ないと治らないからな」  真空さんは、特効薬がある病気じゃないからちゃんと休むしかないぞ、と、慈しむように俺の髪を撫で、立ち去ろうとした。  真空さんがこの部屋から立ち去ったら俺は一人か、と思い至ると同時に、俺は真空さんの手を掴んでいた。体が弱っているから、心までそれに引きずられて弱っているのかもしれない。  真空さんは驚いたように立ち止まったが、何も言わずに俺の隣に戻り、ベッドの横に座り込んだ。 「寝るまで隣にいてやるから、ちゃんと寝てろ」  真空さんはふっと笑う。俺が手を伸ばすと、真空さんは察して握ってくれた。  真空さんがいつもと違って、頼もしく思えた。俺は安堵して、目を閉じた。

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