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4好きって言うだけ

 そこにいたのは案の定兄貴で、心底呆れた顔で立っていた。 「……いつの間に真空君が来たんだとか、風邪が治ってきたと思ったらすぐセックスなのかとか、そういうことは聞かないでおくよ」 「いいとこなんだよ、邪魔すんなクソ兄貴」  そう噛み付くと、兄貴は弱ったような表情で頭を掻いた。 「俺もできれば邪魔したくないんだけどさー……下に平太の友達が、お見舞いに来てるんだよね。館野君と加賀美君、だっけか。追い返す訳にもいかないでしょ?」  思わず真空さんを見ると、真空さんは思い出すように眉を寄せ、思い当たることがあったのか、はたと顔を上げた。 「そういえば、今日お前の友達に、お前の家がどこにあるのか聞かれたんだった」 「……忘れてました?」 「……忘れてた」  互いに青い顔を見合わせた。  仮に真空さんがいる状態で二人を呼んだとしたら、二人は遠慮して、すぐに帰ってしまうだろう。せっかく来てくれたのに、それは二人に申し訳ない。だからといって今すぐ真空さんを帰しても、二人はきっと恐縮してしまう。  それに何より、一度火のついた真空さんは多分、一度おざなりにヌいたくらいじゃ収まらない。現に、こんな状況だというのに真空さんは、時々物欲しそうな目で俺を見上げていた。  そこに、兄貴の仕方ないといった調子の声が挟まれた。 「じゃあ俺出かけるから、隣の俺の部屋使っていいよ。そこに真空君いさせれば?」 「マジで? じゃあそうす――」  言いかけて、ある考えが浮かぶ。怪訝な顔をした二人に、俺は思わず笑顔を向けた。その笑顔はきっと、人の悪そうな笑顔に見えただろう。 「真空さん、どうせなら放置プレイしません?」  真空さんがきょとんとした目を向ける。対して兄貴は、呆れ果てたような顔で肩を竦めた。  俺は薄いブランケットを肩にかけてベッドから出た。鈍く頭が痛んだが、気にせずに歩き、引き出しから物を取り出してそれを真空さんに投げ渡した。 「今ここでそれ、挿れてください」  真空さんがぱっと顔を上げる。頰は紅潮していて、瞳はすっかり蕩けていた。  俺が渡したのは、ピンクローターだった。  しかし真空さんは、気兼ねするように兄貴を見た。だが俺が顎を掴み「返事は?」と無理やりこちらを向かせると、「んぅ……分かり、ました、ご主人様」と上ずった声で返事をした。  俺がローションを渡すと、真空さんは今度は躊躇わずにローションを手に取り、穴に指を挿れた。 「んうぅ……あ、ああ……っん、んぁ……」  ジュプ、という卑猥な水音と嬌声が響く。快感に悶えるように真空さんの体はくねった。  最初は遠慮がちだった指の抜き挿しも、次第に容赦がなくなった。指の本数が増えて、嬌声がさらに大きくなる。 「早く挿れてください」と急かすと「あぁ、っん、すみませんっ……」と謝りながら、真空さんはローターを穴にあてがった。 「んぁ……んんんん……っ」  快感に耐えるように眉をぎゅっと寄せ、一気に押し込んだ。 「挿れ、ましたっ……ご主人様」  快楽に潤んだ瞳を俺に向ける真空さん。返事の代わりにスイッチを入れると、ぱっと口を押さえて体を震えさせた。 「よく出来ました」  そう頭を撫でてやり、俺は兄貴の顔を見、にやりと笑った。 「なあ兄貴……頼みがあるんだけど」

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