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5好きって言うだけ
「……真空君も大変だね」
俺が少し呆れて呟くと、真空君は真っ赤な顔を少し背けた。俺は、真空君の見える面積の多い肌色には、なるべく目を向けないようにした。
「でもっ……俺が、やってほしくて、やってもらってること……なので。むしろ、平太にぃっ……付き合わせてる、側でっ……」
ビクビクと震えながら律儀に答えた真空君。震えてるのは多分、ローターが振動しているからだろう。
「へえ」そう頷きつつ、俺は内心首を捻った。「見る限りだと、平太、今までにないくらいノリノリだったけどね」
えっ、と真空君は聞き返した。俺は苦笑いのまま続けた。
「あんなに楽しそうな平太って俺でもなかなか見ないよ。愛されてるね、君は」
言ってから、何だか前にも同じようなことを言った気がする、と思い当たった。真空君が耳まで真っ赤になる姿も、前に見た気がする。
「ごめんねー、両手を後ろでくっつけてくれるかな」
真空君は赤い顔で頷くと、その通りにした。そこに、平太に頼まれたもの――手錠を付けた。そして、ちょっと動かないでね、と断りを入れて、さらに赤い首輪を付けた。
真空君は肌が白いので、赤い首輪がまるで血の色のように鮮やかで目を引く。それが酷く官能的に見えて、俺は思わず目を逸らした。
「手錠と首輪って……趣味悪いなぁ、平太も。……あれ、しかもこれペット用?」
平太に頼まれた通りに首輪についたリードを、俺のベッドの柱に結びつけながら首を傾げると、真空君は決まり悪そうに顔を背けた。
どうやら承知の上でペット用を使っているようだ。互いに合意しているプレイなら、口を挟むべきじゃないだろう。
俺は何歩か引いてカメラを設置し、スマホを構えると、スマホのカメラ越しに真空君を見た。
「はい、真空君こっち向いてー」
真空君は躊躇う仕草を一瞬見せたが、俺のことを上目遣いで見た。俺はそんな真空君を見て、思わず生唾を飲み込んだ。
弟のものだからとか、俺には恋人がいるからとか、そういうことを一瞬忘れるくらいに――単純に、エロかった。
AV女優も顔負けの官能性溢れるトロ顔に、白い肌と対照的な紅潮した頰と首輪の赤。真空君がこれだから、平太が珍しく能動的で積極的なんだろう。
趣味が悪い趣味が悪いと言いつつも、俺と平太の趣味は兄弟だからか、かなり似ている。俺の好きなものは平太も好きで、反対に平太の好きなものは俺も好きなことが多かった。
何より俺は、千紘と付き合い始めてから一度もヤっていない。正直、かなり欲求不満だった。
だが長く一緒にい過ぎた分、千紘を誘うのも気恥ずかしくできなかった。だからといって俺が千紘を襲うのも、違う気がする。
それに俺がする側、タチだったら多分、今までの俺と何も変わらない。千紘はタチだと言っていたし、今までの自分から脱却する意味でもネコ役に回らなきゃとは思っていたが――経験がない分、誘い方が全く分からなかった。
そんなことをぼうっと考えていると、真空君が戸惑ったように「あの……」と呟いた。俺はその声で我に返り、動揺を隠すように慌てて、シャッターボタンを押した。
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