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6好きって言うだけ

「ほら平太、真空君こんな感じ」  撮った写真を平太に見せると、平太はにやっと笑って頷いた。 「ったく、俺にこんなこと手伝わせやがって……貸し一つな」  ため息を吐くと、平太は顔をしかめた。 「んなこと言ったって、俺の貸しの方がまだまだ大きいからな? 俺に何回撮影手伝わせたと思ってんの? おかげでAVカメラマン並の技術が身に付いたんだけど」 「真空君とのプレイに活かせばいいだろーが」そう冗談交じりに肩を竦めると「あぁ、確かに」と平太は真剣に検討し始めた。  俺が部屋を立ち去ろうとすると、平太は俺の背中に声をかけた。 「なあ兄貴、俺と真空さん見てセックスが恋しくなった?」  図星を指されて「はあ?」と舌打ちしながら振り向くと、したり顔で平太は笑った。 「さっさと千紘さん襲えばいいのに。それともあれか? 千紘さんだと恥ずかしくて出来ないっていう? てかもしかして、千紘さん相手だからやったことないネコ役回ろうとしてる?」 「……平太には関係ねえ」  何故ここまで見透かされているんだろう……兄弟だからか。言い返す言葉がなくて、自分から敗北宣言をした。  俺を言いくるめられて嬉しいのか、にやけながら平太は言う。 「んで、千紘さんが手を出してくるの待ってんの? 兄貴に悟らせず五年くらい片思いしてた千紘さんを?」  それを聞いて、はっとした。千紘は興味がないように思わせながら本当は、我慢しているのかもしれない。 「兄貴から仕掛けなきゃ何も始まんないと思うけど。多分千紘さんヘタレだし」  弟にアドバイスされることが少し悔しかったが、確かにその通りだ。……どうして今まで気付かなかったのだろう。 「つー訳で、千紘さんと一線超えてこいよ。俺の飯は何とかしとくから」  悪戯っぽい笑みを浮かべ、平太は手を振った。平太の優しさがありがたくて、でも何だか癪で、俺は「すっかり生意気になりやがって」と舌を出して部屋を出て行った。

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