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4こころの真ん中には
『どうしよう、ホームルームで明塚と会話しちゃった!!!!!!!!』
俺はそう『!』をうざいくらいにつけて、メッセージを送った。送った相手の柳倫太郎 は、『うるせえ』とにべもない返信をしてきた。
『だって会話だよ?今まではさあ、明塚はこっちの名前も知らなくて俺ばっか憧れてたのに』
しかし返信は『あっそ』の一言だけ。こいつが冷たいのはいつものことなので、俺は畳み掛けた。
『明塚がハムレットのレアティーズ役やるんだよ?』
『絶対かっこいいだろうなあ、写真撮る準備しておかなきゃ』
『でも明塚のファンが増えたらどうしようそれは困るけど』
『そもそもこの学園でファンがいなかったのがおかしいんだよな』
何件か立て続けに送ると、『お前一回黙れよ』と返信された。それと同時に、不意に頰を思い切り引っ張られた。
「いててて! 何だよ……って倫太郎か」
そこには、不機嫌そうな顔の倫太郎が立っていた。
「こっちが購買行ってる時に通知がうるせえんだよ柚葉。てめえの明塚愛は分かったから一生黙っとけ」
舌打ち混じりに倫太郎は言い放つ。
「ちょっと、聞こえたらどうすんだ、声でかい」
慌てて倫太郎の口を塞ごうとするが、倫太郎はしれっとした顔でその手を押し退けた。
「明塚あそこだろ? 聞こえねえって」
確かに、俺の席と明塚の席はちょうど対角線上にある。だからといって、大声で言われてしまったら困る。
てか飯食おうぜ、と勝手に俺の前の席に座ると、俺の机に購買で買ったパンを置き、袋を開けた。
倫太郎は自分勝手だし他人に冷たい。だけど、嫌いなものは嫌いと言える小気味良さが俺は好きだった。
「はあ……何であんなに明塚ってかっこいいんだろう」
こっそり明塚を盗み見て呟くと、倫太郎は「お前が恋してるからだろ」と興味なさげに吐き捨てた。
「恋じゃなくて憧れだって、何回言えば分かるんだよ」
「違いが分かんねえよ」
「だから、恋は相手を自分のものにしたいって思うだろ? 俺は遠くで見てたいんだよ、だから憧れなんだって」
倫太郎は自分から聞いたにも関わらず、あっそ、と返しながらパンを口に運んだ。
「本音は? 確かに明塚は彼氏いるけど、いなかったとしたらどうなんだよ」
そんな答え辛い質問をした倫太郎だったが、俺には一切目を向けず、興味がなさそうだった。
「そんな仮定の上での話したってしょうがないって。それに、もしそうだとしても付き合う付き合わない以前に、俺から話しかけられないから。そんな勇気ないし」
倫太郎はふうん、と呟いた後、こう吐き捨てた。「ヘタレかよ」
「お前さ、中学校の時の明塚知らないからそんなこと言えるんだよ。もう本当、かっこよくてさあ。まずさ、俺が中二の時、その中学に転入したての時に――」
「もうその話は何十回も聞いた」
「あれそうだっけ? じゃあもう一回話していい?」
「やめろ飽きた」
倫太郎はそう言い捨てると、許可も得ずに俺の弁当箱に手を伸ばし、卵焼きを摘んだ。いつものことなので、今更口は挟まない。
そんな話をしていたら、ふっとその時のことを思い出した。
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