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1潮の満ち引き

「ね、真空さん。夏休み、どこ行きたいですか?」  俺は真空さんに、歩きながらそう問いかけた。  今日は修了式で、どっちも部活に入っていない俺と真空さんは、今日から夏休みだった。体育祭のクラス競技の練習、舞台祭の劇の練習、文化祭の準備が割り振られたとは言え、休みの日はたくさんあった。  もう既に、遊園地で花火を見る予定は立ててあったが、それ以外は何も計画していなかった。 「そうだな……平太と一緒なら、どこでも」  微笑んでそう返した真空さん。それが一番困ることを、分かっていないんだろうか。  困るなあ、と呟いてふと、あることが気になったので真空さんに問いかけた。 「真空さん、誕生日っていつですか?」 「クリスマスだ」  何気なく答える真空さん。俺はへえ、と聞き流しそうになってから、思わず驚いた。 「クリスマス? 本当ですか、それ」 「本当だが」  真空さんは疑問げに首を傾げる。クリスマスが誕生日というのが奇跡的だとは感じていないんだろう。 「平太は?」 「八月十四日です」  真空さんはそれを聞いて少し考えると、「お盆か」と呟いた。 「そうなんですよ。誕生日だって喜びにくいですよね。うちは無宗教だし、見守ってくれるようなご先祖様もいないからいいんですけど」  苦笑しながら言うと、「ご先祖様がいない?」と首を捻られた。  しまったな、と後悔する。明るい話じゃないので、極力こういう話は避けたかったのだが。 「ええと……俺も兄貴も、母方の親戚には会ったことがないんですよ。母親が実家に連れて帰りたがらなかったそうで。で、母親は亡くなったので。あと、父方の親戚――それと父親自身には縁切られちゃいましたし」  結局正直に話すと、真空さんはそのまま黙り込んでしまった。  重い話なので、返答に困っているんだろう。やはり適当に誤魔化しておけばよかったか。 「……じゃあ、どうやって暮らしてるんだ」 「父親から金銭面での援助はしてもらってます。それと、家のローンは完済してるんです。あとは兄貴が光熱費とか食費とかを管理してくれてるので、家事は週ごとに二人で割り振ってやってます」  真空さんは視線を迷わせてから俯いて、すまん、と謝った。こんな話をさせたことに対して謝っているのだとしたら、やっぱり真空さんは生真面目だ。

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