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6潮の満ち引き

 静かに寄せる波打ち際を、裸足になって何となく、二人で歩いていた。  足元を波が濡らしたり、かと思ったらすぐ引いたり。その感覚が面白いと感じた。  思えば、俺と真空さんは盛ってばかりで、二人でゆっくりと過ごしたことはなかった。  セフレじゃなくて恋人なのにな。そう心の中で呟いてふと、恋人という響きに笑みが零れた。  そうだ、俺には恋人がいる。一生できることはないだろうと思っていた、恋人が。 「平太?」  真空さんが疑問げに、いきなり笑い出した俺を見た。何でもないです、とかぶりを振ると、そうか、と真空さんは答えた。  かと思うと、真空さんは不意に優しげな笑顔を浮かべて、俺と目を合わせた。 「なあ平太、今日の朝も言ったことだが……誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう」  その言葉がじんと心に沁みた。それと一緒に、愛しさで胸が溢れた。  真空さんのその言葉だけで、ここまで生きてきた甲斐があった、と言えるくらい、嬉しかった。本当に、自分にこんなに大切なものができるなんて思わなかった。  真空さんはバッグの中に手を入れながら、遠慮がちに言った。 「こういうのはムードのある場所で渡そうと思って……あんまり、嬉しくないかもしれないが」  真空さんが手渡したのは、小さめの黒い箱だった。  開けると、腕時計が入っていた。それは、白い文字盤に黒い英数字、紺色のベルトに赤銅色の縁の、大人っぽいデザインだった。 「誕生日プレゼントだ。遊園地の時に身に付けるものをもらって、嬉しかったから」  それから躊躇って、はにかむように続けた。 「……それを見る度に、その、俺のことを考えて欲しくて」  少し恥ずかしがるような真空さんが、愛しくて堪らなくて。思い切り抱き締めたい衝動に駆られて抱き締めると、うわ、と真空さんは驚いたような声を上げた。 「……ありがとうございます。真空さん愛してます」  耳元で囁くと、真空さんはすぐに赤くなった。そんなところも可愛いと思って、さらに強く抱き締めた。  真空さんは恥ずかしかったのか、黙ったままだったがしばらくして「嬉しいか?」と尋ねた。 「すごく嬉しいです。本当に……真空さんが恋人でよかった」  思わず噛み締めるように囁いた。  しばらくしても、真空さんからの返答がなかったので、疑問に思って真空さんの顔を覗き込んだ。覗き込んで見えた真空さんは、耳まで赤くして、だけど心から嬉しそうな笑顔を浮かべていた。  俺の視線に気付き、真空さんは、はっとしたように顔を背けた。 「み、見るなって」  俺は思わず、笑顔になった。真空さんがあまりにも可愛くて、そんな真空さんといられることが幸せで。

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