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4その笑顔が向けられるのは

「なあ待って……疲れない? お前らそんなに元気で疲れないの?」  少しうんざりした様子で平太が言う。 「何言ってんの? まだまだだよ!」 「そうだよ平太、体力ねーな。それでも高校生か?」  俺と和泉が口々に言うと、平太は呆れ笑った。 「むしろお前らが高校生かよ……テンションが小学生並。つーか俺もう昼飯食いたいんだけど」 「……あ、そっか! もうそんな時間か!」  はたと思い至った和泉は、俺の方を振り向いて「もう昼ご飯食べる?」と問いかけた。  俺が食べようぜ、と頷くと、和泉はぱっと顔を明るくした。 「よし決まり! 何食べるー?」  そう言いながら、いそいそと沖に向かって泳ぎ出した。それを後ろから追いかけながら、やっぱり和泉の天真爛漫さには癒されるな、なんて思った。  水の中で平太が小突いてくる。何だよ、と平太の方を向くと、面白がるような笑みを浮かべていた。 「今、やっぱり可愛いな、なんて思ってただろ?」 「う、っるせーな、お前には関係ねー」 「分かりやすいんだよお前は」  くすっと笑ってから、平太は和泉を追いかけた。  やっぱり、こいつには敵わない。 「で? 何食べる?」  海の家に並んでようやく席に着き、平太がメニューを開いて俺たちに問う。 「えっとね、僕もう決めてある! 店の前に貼ってあったメニューでもう決めたんだ!」 「俺も決めてある」  平太が意外そうに「へえ」と片眉を上げた。「言ってみろよ」 「ラーメン」 「ラーメン」  声が重なった。驚いて顔を見合わせ、どちらからともなく笑ってしまった。 「海まで来てラーメンかよ……」  平太が辟易したように言う。 「馬っ鹿、ラーメンなめんじゃねーよ。安定して美味くて安くて、最高だろ?」 「そうだよ! ラーメンはいつでも美味しいんだからね!」  平太は辟易した顔のまま、あっそ、と呟いた。 「似た者同士だな、お前ら」  俺と和泉はまた、顔を見合わせた。 「へへ、似た者同士だって! 何か照れるね」  和泉はにかっと笑った。何のてらいもなく言われたその言葉に、俺の心臓は分かりやすく高鳴った。 「平太は?」 「冷やし中華」と答えながら、店員さんを呼んだ平太。さっさと全員分注文してしまうと、最初に持ってこられたお冷やを呷った。 「つーか今日あちいな、こんな日にラーメンとか食えんの?」  平太が何気なく少し濡れた前髪をかき上げて、手で顔を仰いだ。和泉が平太に釘付けになる。  ……悔しいことに、平太が前髪をかき上げると、くらっとくるほど色気が増す。俺じゃ、ああはいかない。 「どうした?」  何も言わずにじっと見つめる和泉に、平太が不思議そうに首を傾げた。和泉は慌てて目を逸らして答えた。 「なっ……何でもない!」  何となく気分が良くない。見惚れた理由が俺でも理解できるから、なおさら。

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