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5その笑顔が向けられるのは
「平太ってモテるだろ」
平太は「何を今更」と笑った。
平太は、俺や和泉みたいな仲の良いやつに褒められても絶対に謙遜しない。謙遜して、フォローされて、というやり取りが面倒くさいんだそうだ。
「あー本当苛つく。お前どうせ、告白された回数とか経験回数とかも多いんだろ?」
「数えたことねえよそんなもん」
もしそれが十に満たない回数なら、数えるまでもなく覚えているだろう。ということは、十や二十は軽く越していることになる。
和泉が気圧されたように「さすがだね……」と呟く。俺も同じ気持ちだった。
「和泉は? 告白された回数とか覚えてんの?」
和泉が前、クラスメイトに色々とされていたという話は平太からちらっと聞いた。だから分かるが、何気なく経験回数は聞かなかったのは、平太の気遣いだろう。
「何かね、誕生日にプレゼントもらったりバレンタインにチョコもらったりはするんだけど、告白は二回だけ」
「二回? それだけ?」と驚いた表情になった平太に、俺が横から口を挟んだ。
「ほら、和泉はファンクラブあるから皆牽制し合ってんだよ」
「え? 僕ってファンクラブあるの?」
本人から言われたのに驚いて「え? むしろ知らなかったの?」と同じように問い返してしまった。
「知らなかった。そうなんだ……平太君のがちょっと前にできたのは知ってたけど、僕にもファンクラブってあったんだ……」
「ちょっと待てよ、今のは聞き捨てならない」
驚き半分、感心半分で呟く和泉に、平太が顔色を変えて突っ込んだ。
「知らなかったのかよ。同じクラスの……巴だ、巴がつくったって聞いた。噂だともう結構加入者いるとか」
平太は不意に「あぁ」と納得したような声を上げた。
「巴って俺のことすごい見てくるなって思ってたんだけど……そういうことか」
それから、呆れたように笑った。
「お前本当に色々と詳しいな」
「……噂とか好きだから」
お前絶対週刊誌の記者とか向いてるぜ、なんて嘘か本当か分からないことを言ってから、平太はふと尋ねた。
「さっき和泉が誕生日にプレゼントもらうって言ってたけどさ、そういや二人とも誕生日いつだっけ」
「僕は三月七日!」
「俺は二月二十六日」
「二人とも結構後だな」そう呟きながら平太は携帯を出し、何かを打ち込んだ。「分かった、覚えとく」
「あっ!」と不意に和泉が大声を上げた。何だよ、と驚いたように平太が言う。
「そういえばこの間平太君の誕生日だったでしょ! 僕プレゼント持ってきたんだ!」
言いながら和泉は何かを探すようにきょろきょろとした。不思議に思っていると、やがて和泉はへらっと笑った。
「あは、荷物は今ロッカーの中だった」
きゅんとした。生徒会長としての和泉はしっかり者なのに、こういうところでよく抜けているから、ギャップが堪らない。
「お待たせしました、醤油ラーメンです」
そんな時、ラーメンが二つ来た。
「冷やし中華ざまあ」なんて笑ってやると、平太は一つ舌打ちをかました。
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