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10その笑顔が向けられるのは

「それに」思い出したように平太が続ける。「渉のプレゼントよりは愛が込もってる感じするし」 「は? お前いらないなら返せ、俺だってあれ自分で使いてーんだよ」  俺が平太に渡したのは、電子マネーのカードだった。結局何がいいか分からず、というか考えるのも面倒で、これならまず嫌じゃないだろうと思って電子マネーのカードにしたのだ。 「わり、もう全部課金に使ったから返せねえ」  その返答に、俺は思わず「は?」と目を剥いた。  誕生日の日に平太が先輩と泊まりがけでデートに行くのは知っていたから、俺は誕生日の更に前の日に、既にそれを渡していた。とは言っても、まだ渡した日から一週間ほどしか経っていない。 「お前早くね? 使い切るの」  平太はバツが悪そうに苦笑いした。 「いや……俺って趣味らしい趣味、ゲームくらいしかねえから」 「寂しいやつだな」嘲笑混じりにそう言ってから俺は、独り言のように言った。「……でも、それでも大概のことはそつなくこなせるから、嫌味なやつだよな」  俺の独り言は聞こえなかったようで、「何?」と平太は訊き返す。何でもねーよ、と返すと、不服げな顔ながらも平太は頷いた。  こんな恥ずかしい嫉妬のような言葉、聞かれなくて本当によかった。嫌味なやつ、だなんて時々思うけれど、だからといって平太が嫌いな訳ではないのだから。 「……来てよかったな、海」  平太が和泉の頭をぽんぽんと撫で、その手を和泉から離してから俺は、ふと呟いた。 「だな」 「だね」  二人は口々にそう賛同した。俺が二人と顔を合わせると、二人は同じタイミングで破顔した。 「……でも、今度は違う海行こうな。俺もう同中の生徒と会うのマジ勘弁」  げんなりとした顔で平太が提案する。  平太はどうやら、中学生時代に『人気者になれば毎日楽に過ごせる』と考えたらしく、皆の人気者を演じたのだそうだ。だから計算高く考えた末に、彼らと一緒にいたのだという。  その結果、確かに楽に過ごせた部分はあるが、いらない苦労を背負ってしまった部分もあるという。それに、平太は彼らのことが得意ではなかったのだそうだ。  そりゃそうだろう。彼らはきっと自ら面倒事を背負い、それを仲間で面白がるタイプだ。面倒事を極力避けて通りたがる平太とは、どう考えてもそりが合わない。 「……苦手? 楽しそうだったけど」  平太は和泉のその言葉を聞いて、苦い笑みを浮かべる。 「そりゃあな。楽しそうにしてんだから、楽しそうに見えねえと困る」  ――俺は、平太のことを最初は、見かけによらず不真面目なやつだと思った。その次は、容姿も良ければなんでもそつなくこなす、すごいやつだと思った。  今は――寂しいやつだと思う。俺とは違う意味で不器用だとも感じる。器用過ぎるが故に、かえって不器用な部分が生まれてしまうのだろう。 「でも、今は結構素のまんまで過ごしてる気ぃする」  平太の言葉に、和泉がほっとしたような、嬉しそうな顔をする。  だけど、平太が「それもやっぱ――」なんて呟いて、その先を飲み込んだのを見て、和泉の表情はすっと萎んだ。でも、僅かな悲しさと我慢とを映したかと思うと、すぐに何かを悟ったように、諦めたように笑った。 「先輩のおかげ?」  平太は驚いてそれから、笑った。まるで先輩を慈しむかのような、柔らかい笑みだった。 「まあな」  きっと、その笑顔が和泉に向けられることはない。それを分かっていたのか、和泉は諦めたように「そっか」と笑った。  そしてきっと、和泉のそんな笑顔が俺に向けられることも、ないだろう。それが分かっていたから俺も、「さすがだなぁ平太」なんて、他人事みたいに笑った。  俺はそれでも、まあいいか、なんて思う。たとえどんな事情を抱えていようと、俺と和泉と平太は友達だ。それはきっと、変わらない。  だから俺は、「三人でまた来ような、海」なんて、自分の思いを完結させるように、呟いた。

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