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1心も体も縛り付けて
「真空さん、帰りましょう」
そう言って立ち上がりかけた平太の手を、俺は掴んだ。そして、平太にだけ聞こえるように囁いた。
「平太、無理ぃ……家、まで……我慢、できなっ……」
それを聞いて、普段通りだった平太の表情が、嗜虐的に歪んだ。面白くて仕方がないといった調子でくすりと笑いを零すと、耳元で囁いた。
「堪え性がないなぁ、雌犬」
その言葉が、快感となって下半身を襲う。自分でも今は相当いやらしい顔をしているのだろうと察しがつくくらい、さっきから頭の中は『犯されたい』ということでいっぱいだった。
「でも、もう閉園時間ですし、遊園地の外までは歩いていかないと駄目ですよ」
平太が普段通りの声色に戻って言う。俺にとってそれが、どれだけ辛いことか重々承知しているはずなのに。
だけど俺には、頷く他の選択肢がなかった。
こうなったきっかけは、何時間か前にあった。俺と平太は、遊園地で花火が打ち上がる前、出店されていた出店を見ていた。
「……真空さん、他に何食べます?」
平太がそう問う。浴衣の襟から、いつもはあまり見えない鎖骨と胸元が見えていて、色っぽくて直視ができなかった。
チョコバナナ、と答えると、平太は苦笑を零した。
「また甘いものですか。甘いものばっかりで飽きません?」
「だって……甘いもの好きだから」
平太はそれを聞いて、俺の頰をすっと撫でた。
「本当、甘いもの好きなんて意外ですよね。可愛いです」
頰が一気に熱くなる。そんな俺を見て平太は、くすりと笑って背を向けた。
「チョコバナナ、ちょっと先の屋台で売ってましたよね」
そしてそのまま歩いて行くのかと思うと、平太は何気なく俺の手を取って、自然に指を絡ませた。驚いて平太の顔を見ると、平太は「どうしました?」と普段通りの顔で尋ねる。
平太はずるい。何をしたら俺が照れるのか分かっていてわざと、そういう行動をとるから。俺は俯いて、首を振るしかできなかった。
「……どうした?」
チョコバナナを買って、人気の少ない場所で地面にしゃがんで食べていると、何も食べておらず立っている平太が、ちらちらと無言で俺のことを見てくるのだ。疑問に思って尋ねると平太は、いや、と歯切れ悪く誤魔化した。
俺がまたそのチョコバナナに口を付けると、平太は俺の口元をまた、じっと見つめてきた。
「だから、どうしたんだ?」
「何でもないです。食べててください」
疑問に思いつつも、俺は食べるのを再開した。このチョコバナナは普通のと比べて割と大きめで、食べるのが大変だった。食べ方に悪戦苦闘して、ふと平太の顔を見上げて――俺は言葉を失った。
平太は微笑んでいた。ただ、普段通りの愛しさが混じった笑みではなく、口の端だけで笑うような、怖気の走る笑みだった。平太がこんな表情をする時は間違いなく、興奮している。
ゾク、と震えが背を撫でた。どうしてこんな表情をしているのかは分からないが、俺まで欲情してしまいそうになる。
そんな自分を誤魔化そうと思ってふとチョコバナナに目を落として、悟った。……もしかしたら平太は、俺がチョコバナナを食べている姿が、しゃぶっている時と似ていると思ったのかもしれない。
一気に顔が熱くなる。そんな顔を見つめられていたのかと思うと、どうしていいか分からなくなった。
チョコバナナを見つめて動けなくなった俺を見て、平太は察したのか、底意地の悪そうな声色で囁いた。
「続き、食べないんですか」
その声を聞いて、甘やかな痺れが走る。自分でも分かるくらい完全に、欲情してしまった。
ただチョコバナナを食べているだけなのに、まるで恥ずかしい姿をじっと見られているような気分になる。食べるのに集中なんてできなくて、気付けば甘い吐息が口から漏れてしまった。
何とか食べ終わってしまうと、それを見計らったように平太が俺の耳元に顔を寄せ、囁いた。
「チョコバナナを食べてるだけなのに、すごくエロかったですよ。さすが淫乱なだけありますね」
平太は人気が少ないのをいいことに、囁くだけでなく俺の耳をねっとりと舐め上げた。「ん、ふうぅ……」と抑え切れなかった吐息が漏れる。
自分でも呆れてしまうが、息は上がってしまっているし、後ろはひくひくと疼くのが止まらないしで、我慢ができなくなっていた。
「平太ぁ……」
普通に呼びかけたつもりだったが、鼻にかかった声になってしまっていた。それを聞いて平太は、口元を歪めた。
「平太?」
平太がそうわざとらしく聞き返す。その嗜虐的な声色に興奮してしまい、快感が背を撫でる。
平太が何と呼ばれたいか察して、俺は震える声で言った。
「ご……ご主人様ぁ……お願いします、ご奉仕、させて……させて、くださいぃ……」
平太は口元をさらに吊り上げた。寒気のするような笑みだった。
「じゃあこっち、来てください」
かと思うと平太は、有無を言わせぬ口調で言うと、俺の手を思い切り引っ張った。しゃがんでいたのに手を引かれ、転びそうになるのを必死に堪え、引っ張られていった。
強引な平太に、ときめきが抑えられなかった。
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