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1あの頃から変われないまま

「毎年見てるよね、ここで花火」 「そうだな」と答える真空の視線は、窓の外を見ているようでその実、ここにはいない彼に向いているようだった。  真空の父親と僕の父親は大学の同期だったらしくて、親交が深い。だから毎年花火大会のある時期には、僕の父親が保有しているビルの最上階にあるレストランを一つ貸し切って、そこから花火を見ていた。  食事も終わったので、僕と真空の父親は僕らがい席からはだいぶ離れた場所でグラスを傾けながら談笑していることだろう。二人の会話は全く聞こえない代わりに、僕らの会話もきっと、二人には聞こえない。  僕らがいる席は一面ガラス張りな上に花火が打ち上げられる場所から近いため、他のどんなところよりも花火が綺麗に見える。  綺麗に見えるはずなのに、真空の瞳は少し憂いを帯びていた。   ――恋愛に興味のない真空のことだから、僕以外に関心を持たないように縛り付けておけば、この先ずっと一緒にいられるものだと思っていた。実際、これまではずっと、真空のことを一番好きなのも、真空のことを一番理解しているのも、真空が一番に頼るのも、僕一人だけだった。  明塚君さえいなければ、真空はずっと僕だけのものだった。そう明塚君を憎む一方で、果たしてそうだろうかと心の隅で囁く声がする。結局は時間の問題だったのかもしれないだろう、と。  だけどそんなことを認めてしまったら、今までの自分があまりにも滑稽で、愚かで、だからこそなりふり構わず『真空と僕は両思いで、それを明塚君が引き裂いた』という考えにしがみつくしかなかった。 「……伊織」不意に真空が顔を上げ、僕の目を見た。「何度も言っているが、俺は平太のものだ」 「どうして? どうして明塚君なの? 僕の方がずっと長く一緒にいたのに、僕の方がずっと長く真空のことが好きなのに」  真空はその返答を予想していたかのように、すぐ返した。 「一緒にいた時間の長さだけじゃ恋愛感情は生まれない」  そんなことない、と言いかけた僕を手で制して、真空は諭すように続ける。 「伊織のことは好きだ。だが、あくまで幼馴染として。兄弟みたいにずっと一緒だったからな、今更恋愛対象としては見れん」 「……絶対真空は後悔するよ。第一どうして出会って数ヶ月の明塚君をそんなに好きになれるの? まだほとんど何も知らないでしょ? 明塚君だってまだ真空のことをほとんど知らない。いつか幻滅するかもしれないしされるかもしれない。なのにどうして?」一呼吸置いて、僕は真空の目を見据えた。「僕の方が、真空のことを愛せる」  真空は戸惑ったように視線を逸らした。悩むように地に落ち、やがて真空は僕をまた見つめ返した。 「その気持ちは嬉しいし、ずっと前からその気持ちは知ってた。だが……それでも、どうしても好きにはなれないし、俺は平太のことが好きだ。すまんな」 「どうして!」言葉が、真空を糾弾するような響きになってしまう。「僕の方が……僕の方が!」  それ以上は荒れた感情が喉元で暴れていて、言葉にすることはできなかった。色んな感情がごちゃ混ぜになって、自分でも自分がよく分からない。  真空は申し訳なさそうな表情を一度見せ、すぐに首を振ってそれを振り払うと、毅然として告げた。 「確かに、伊織の方が俺のことを好きかもしれないが……だけど俺は平太が好きだ。分かってくれ、頼む。それから、もう平太に手を出すな」  苦しいくらいに嫌な動悸がする。胸がずきずきと痛むのが止まらない。気付けば、きつく唇を噛んでいた。  どうして、僕の方が、と同じ言葉ばかりが頭の中をぐるぐると回る。分からない、分かりたくない。どうして――こんなに僕は好きなのに。

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