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6あの頃から変われないまま
「終わったぁー。真空、今回の数学難しくなかった?」
「そうか? むしろ簡単に感じたが」
真空は澄ました顔で首を傾げた。
「そりゃあね、真空は数学が得意だからそう言えるんだよぉ」
だらっと不満を口にすると、真空は納得しない顔ながらも「そうか」と頷いた。
「ね、じゃあさ、テスト終わったからーー」
僕と出かけようよ、どこに行きたいかとかは一応考えてあるんだ――そう僕が言いかけたちょうどその時、ブーッと携帯のバイブが鳴った。
何だと思って見ると、真空に電話が来ていた。真空はその携帯を何気なく確認して、顔色を変えた。
澄ましたような表情は一変、真空は花開くような笑顔を見せた。その嬉しさが溢れて滲み出るような笑顔が、僕に向けられたことは、ない。
「……すまん、ちょっと電話に出てくる!」
真空はそう言い残して、慌てた様子で教室の外に駆けた。
その電話の相手とどんな会話をするのかがどうしても気になって、僕は音を立てないように扉まで近寄って、聞き耳を立てた。
『あの、今日暇ですか? 先輩、テスト勉強で忙しいだろうし、テスト終わるまでは連絡しないでおこうと思ってたんですけど』
一瞬考えたが、すぐに声の主が思い当たった。明塚君だ。
テスト終わるまでは連絡しないでおこう――それじゃまるで、いつもは連絡を取っているみたいだ。その上暇かどうか聞くために電話をかけるだなんて、かなり仲が良さそうだ。
どうして明塚君と真空がそんなに仲が良いのだろう、と疑問符が頭の中を埋め尽くす。
『寂しかったですか?』
冗談めかした問いかけが聞こえる。僕の真空なのに、と醜い嫉妬心が湧き上がる。
「……寂しかった」
真空は少し間を空けて、拗ねたような声色で答えた。そんな子供みたいな真空の声、僕は聞いたことがないのに。どうして彼なんかには、そんなことを言うのだろう。
明塚君はそれを聞いて、しばらく黙った。「どうした」と真空が聞くと、ぼそっと答える明塚君の声が聞こえた。
『……反則ですよ、先輩』その後、明塚君は話をそらすように言った。『で、暇ですか?』
「暇だ」
真空は間髪を入れずに答えた。……僕の方が先に約束をしてあったのに。怒りにも似た嫉妬心が止まらない。
『ならよかった。じゃ、校門の近くで待ってるんで』
そして、ふと思い出したように明塚君は付け加えた。
『俺も寂しかったですよ』
――何が俺も寂しかったですよ、だ。そんなの――まるで付き合いたてのカップルみたいだ。嫌な想像が頭を埋め尽くし、動悸がする。
真空の動く気配がして、僕は慌てて席に戻って、何食わぬ顔で真空を見た。心の中ではどす黒い感情が溢れていたのに。
「……あ、戻ってきた。でさーー」
明塚君のことを問い質そうと思った。だけど真空は、僕の話をろくに聞かず、荷物を引っ掴んだ。
「すまん、用事を思い出した!」
そしてそのまま教室を飛び出して行った。
「……ふーん。用事、ねぇ」
思わず呟いた僕の声は、氷のように冷え切って聞こえた。
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