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7あの頃から変われないまま
「確かに、伊織の方が俺のことを好きかもしれないが……だけど俺は平太が好きだ。分かってくれ、頼む。それから、もう平太に手を出すな」
僕にそう告げた後、真空はしばらく黙り込んだ。僕は苦しい気持ちでいっぱいで、呼吸すらままならなかった。
重たい沈黙が下りる。身動きするのも躊躇うほどの沈黙が。
気付けば、花火は既に打ち上がってしまっていた。だけどそれを見て楽しむほどの余裕は、僕にも真空にもなかった。
しかし真空は、その思いを振り払うように首を振り、僕に静かに語りかけた。
「なあ伊織。お前のことだから、子供の頃のことを引きずり続けているんだろ? 俺しか味方のいなかったあの頃を。伊織は勝ち気そうに見えて実は繊細だからな」
図星だった。やっぱり、真空には全て見透かされていそうだ。
「だから、俺がいなきゃ駄目なんだと、俺しかいないんだと、そう思っているのかもしれない。いや、きっとそう思っているはずだ」
真空は真っ直ぐに僕を見据えた。
「いい加減周りをちゃんと見ろ。今は、お前のことが好きでお前の周りに集まってくる人もたくさんいるはずだ。俺以外にも、ちゃんと」
その言葉は喉につっかえた異物みたいに、息苦しさを与えるものだった。……だけど、頑張ってその言葉を飲み下しても、やっぱり僕は、真空じゃなきゃ駄目だ。
僕の表情から考えていることを察したのか、真空は小さくため息を吐いた。
「あのな、伊織はもうあの頃のお前とは違う。俺もだ。俺も、あの頃の俺とは違う。もう、お互いさえいればいい――なんて、無理だ」
真空はなおも諭すように続ける。聞きたくない。これ以上はもう、何も。
「確かに、昔仲が良かったのはお前だけだった。だが、今俺には平太がいる。お前にだって、きっといつかそういう人が見つかる。……いいか、俺とお前はただの腐れ縁だ。恋愛対象ではないんだ」
「見つかんないよ……見つかんない、そんなこと言われても、僕には真空しかいないんだもん! 恋愛じゃないって言うならそれでも構わない。でも……でも、恋愛じゃないとしても僕には真空が必要なんだ! 必要、だから……お願い、僕以外を見ないで……」
縋り付くように真空に必死に訴えかけたが、真空は少し申し訳なさそうな色を浮かべ、それでも毅然と僕に告げた。
「無理だ。俺は平太のものだ。……俺とは幼馴染として、これからも仲良くして欲しい」
真空はその後、話を逸らすように窓の外を見つめ「花火、すごいな」と呟いた。
嫌だ。認めたくない。そんな悲痛な思いが僕の内側で暴れていた。
僕の方がずっと長く真空のことが好きで、ずっと前から僕と真空は両思いなんだと思っていて……真空の言うことを認めてしまったら、昔の自分があまりにも哀れで滑稽だ。
誰に何と言われても、僕は真空が好きだ。何よりも真空が好きだ。こんな気持ちは他の誰にも感じたことがなくて、真空だけがずっと僕の特別だった。
なのに、真空は明塚君が好きで明塚君と付き合っているだなんてそんな残酷なこと、認められるはずがない。だから――明塚君が真空を惑わせているだけ、なんて考えに盲信的に縋ってしまっても、仕方がなかった。
窓の外を見つめる真空の横顔は、泣きたくなるほどに綺麗で、僕はその横顔に心の中で、どうして、と何度目か忘れるほどの言葉を呟いた。
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