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2王子様なんて馬鹿らしい
「倫太郎ぉ……明塚が王子様役やってくれるって……もう何か……何かさぁ……とりあえずつらい」
昼休み、案の定柚葉はため息を吐きながら俺の前の席に座った。
柚葉は、普段は落ち着いた綺麗な言葉を使うのに、明塚が絡むと途端に支離滅裂なことを言い出す。それが柚葉の気持ちの深さを表しているようで、やり切れない気持ちが広がる。
「お前さ、明塚が絡むと何言ってんのか分かんなくなる癖直せよ。お前の普段の読書量はどこに消えてんの?」
「そんなこと言われてもさぁ……王子様だよ?」
明塚の姿を想像でもしたのか、柚葉は口元を押さえた。そしてしばらく後に、「死にそう」とまた深くため息を吐いた。
喜び方を忘れたのかと言いたくなるような反応だが、これで最大限の喜びを表しているのだから、よく分からない。
「馬鹿らしい、たかが衣装一つで何でそこまで喜べる訳?」
「たかが衣装一つ?」
俺がため息混じりに呟くと、柚葉は噛み付くように尋ねてきた。
「たかが、って、じゃあそれなら何のためにコスプレって存在してると思ってるんだよ?」
「知りたくもないね、そんなもん」
このままでは柚葉が長々と語ってしまうかもしれないと思い、慌てて俺は遮った。
話を遮られて不服げな柚葉だったが、すぐに「まあいっか」と気を取り直した。いつものことだと思っているのだろう。
「つーか、誰が明塚の役やったって変わんねえだろ。わざわざ嫌がってるやつにやらせるより、お前がやればよかったのに」
「変わるよ! 俺がやったって話題性に欠けるけどその点明塚なら十分だし、明塚みたいな格好いい人が王子様の衣装を着て歩いてたら当然注目が集まるだろうから、必然的にうちのクラスにも人が集まるだろうし」
「ふーん。……お前がその役やるんだったら、たかが衣装一つで、なんて言わなかったんだけどな」
独り言のように呟いたが柚葉に聞こえてしまっていたようで、柚葉は疑問げに首を傾げた。
「俺がその役やるんだったら……ってどういうこと?」
心底不思議そうな柚葉に、思わずため息が漏れてしまった。――本当にこいつは、明塚のことしか見えていない。
「何でもねえよバーカ、役に立たねえ知識ばっか頭に詰め込んでねえで、少しは役に立つことでも覚えろ」
柚葉の察しの悪さはいつものことだったが、無性に苛ついてしまって、俺はそう吐き捨てた。案の定柚葉は、不思議そうに首を捻っていた。
「役に立つことって例えば?」
「人付き合いの仕方とか」
柚葉はそれを聞いて「あー……確かにちょっと苦手かも」と苦い顔になった。
しかしすぐ後に、からっとした笑顔を見せた。
「でも倫太郎も人付き合い苦手だよね? こうやって苦手な人間同士一緒にいれば何とかなるんじゃない? 苦手なままでもさ」
柚葉の笑顔に胸が締め付けられる。そっと視線を逸らしてから、俺は心の中でため息を吐いた。
柚葉は自分の価値に無頓着過ぎる。だから、その明るい言動や笑顔が魅力的だということに気付かない。
自分には価値がないんだと卑屈になっているのではなく、そもそも気にした試しがないのだ。柚葉は自分すら二の次で、明塚が第一だから。
「あっそ」
だけど本音を言うのはどうにも気恥ずかしくて、俺はいつものように無愛想な返事しかできなかった。
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