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9王子様なんて馬鹿らしい

「倫太郎と俺が同じ? ……って、どういうこと?」  柚葉がそう言って首を傾げる。……本当にこいつは、呆れるほどに鈍感だ。 「柚葉は、明塚に出会うまで他人からまともに話しかけてもらえなかった、だけど明塚が話しかけてくれて『本が好き』っていう自分を肯定してもらえた、だから明塚に惚れた――そうだろ?」 「うん、まあ。……あ、もしかして、気のないふりをしつつも実は倫太郎も明塚に憧れてた? 何だあ、それなら照れずに早く言ってくれれば――」 「ふざっけんなよ!」  勝手におかしな方向に納得し始めた柚葉。さすがにこれは鈍感が過ぎる。  気付けば、激しい怒りが体を突き動かし、俺は柚葉の胸倉を掴み上げていた。  柚葉は呆気にとられたような表情で俺を見つめていた。 「いつもいつもお前はそうやって! 何でそんなに明塚以外見えてねえんだよ! 何で明塚ばっかり……俺を見ろよ!」 「倫太郎を見ろ、って……?」  柚葉は何度か瞬きをして、本当に理解ができないように首を傾げた。 「――っ、だから、俺だって柚葉と同じなんだよ! 今まで怖いとか気味悪いとか言われて避けられてきて、だけど柚葉は何も気にせず俺に話しかけてきて、自分と似てるし一緒にいて落ち着くって、一緒にいて楽しいって俺を肯定してくれてっ――最初は変なやつだと思ったけど、でも!」 「……倫太郎、いきなり何を言ってるの。そんな言い方、まるで……まるで、倫太郎が俺を……」  柚葉は目を見開いた。その瞳は揺れて、困惑を映し出していた。 「――ああそうだよ、やっと気付いたかこの鈍感馬鹿! 俺はっ……柚葉が好きなんだ!」  柚葉は口をぽかんと開け、瞬きもせずに俺を見た。そんなこと、予想もしていなかったかのような反応だ。  言い切ってからしばらくして、勢いに任せて自分がとんでもないことを言ってしまったのに気付いた。気持ちが落ち着いていくのにつれて、顔から血の気が引くのを感じる。  引かれた。絶対に引かれた。柚葉は明塚に憧れているとはいえ、恋愛対象は女だと聞いた。だから、まず望みはない。ちゃんと分かっていたのに――  頭の中が焦りと後悔でいっぱいになる。どうすればいいか分からなくなって、全てなかったことにしたくて、俺は柚葉の前から逃げ出した。 「待って、倫太郎!」  柚葉の声が背中にかかる。だけど振り向くなんてできなくて、意気地なしな俺は走り去った。 「どうしよう、どうしよう絶対引かれた……友達だったのに」  俺はそんな言葉を、何度目だか忘れるくらいに呟いていた。家に帰る気はしなくて、だけど学校に戻りたくもなくて、結局俺は自分の家の近くの公園のベンチに座って頭を抱えていた。  とうとう言ってしまった。言う気はさらさらなかったのに。  これからどんな顔をして柚葉に会えばいいのだろうか。だんだん距離を置かれて最終的に話しかけられなくなったらどうしよう。そんなことになってしまったら、一体俺はこれから何のために学校に行けばいいのか。  視界が歪む。目頭が熱くなっているのが分かって、自分が泣きそうだということに気付いた。  もうここに座ってどれくらい経ったか分からないが、ベンチから立つ気すら起きない。  日が少し傾いて、暑さは大分マシになった。それでも残暑は厳しくて、暑さとショックで頭がぼうっとする。まともにものを考えられない。  そうやってベンチでぐだぐだと思い悩みながらどれくらい経ったのかは分からないが、不意に切羽詰まったような声が聞こえた。 「――倫太郎!」

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