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1気遣いの空回り
「へ、平太、その……」
俺の家の前で引き返そうとした平太の服の裾を掴んで、俺は口ごもった。平太は「どうしました?」と首を傾げた。
夏休みが明けてから三週間ほど、平太は毎日俺を家まで送ってくれている。俺だけが劇の練習がある日でも、俺のクラスが体育祭の練習があって平太のクラスが何もない日でも、必ず俺を待っていてくれていた。
それはとても嬉しい。だけどそれだけじゃどうしても、足りない。
「最近……キスとか、してくれないなと、思うんだが……」
結局恥ずかしくて、遠回しにしか言えなかった。平太は気付いているのか気付いていないのか、ふっと笑った。
「確かに言われてみれば。寂しかったんですか?」
黙って頷く。すると平太が不意に顔を近付けて唇を重ねてきた。
どくんと胸が高鳴る。だけど期待とは裏腹に舌は絡んでこなくて、軽く触れただけで離れてしまった。
「嫌いになったとか飽きたとか、そういうことじゃないですよ。ただ真空さんは最近すごく忙しそうじゃないですか。だから、そういうことする暇ないし迷惑になるかなと思って、控えてます」
「……忙しそう?」
聞き返すと、平太は苦笑して答えた。
「はい。だって真空さん、劇の主役だし体育祭でもいくつか競技に出るし文化祭の準備も極力参加してるし、しかも今から受験勉強を始めてますよね? そんな忙しそうなのに邪魔なんてできませんよ」
「……そうか」
頷いた俺の髪を軽く撫でて、平太は言った。
「そんなに忙しくて体壊しません? ちゃんと睡眠時間はとってくださいね」
そう真っ直ぐ俺を見つめて言うと、平太は「じゃ、また明日」と踵を返した。
「……はあぁ」
俺はやることを全て終えて、ベッドに入ってから少しして、思わずため息を吐いた。
――平太に愛されているのは確かに伝わってくる。俺のことを気遣っているのもよく分かっている。だけど……ずっと欲求不満だった。
三週間ほど一度もしないどころか、キスすら軽く触れる程度。夏休み中との落差が激しかった。
自分でいくら慰めても足りないし、夜は疼く体がおさまらない。だが自分では平太に何も言えなくて、結局体の奥でくすぶる熱をもてあますばかり。
目をぎゅっと瞑って何とか眠りに就こうと思ったが、無理だった。下半身が熱を持って疼いて仕方がない。
平太に体をまさぐられたい。触られて、苛められて、蔑まれて、それから……頭を巡る妄想が止まらない。気付いたら、下に手を伸ばしていた。
「んっ、ふぅ……うっ……んん……」
どうしても我慢ができなくなって、布団を剥いで下の寝間着を下ろし、穴に指を挿れ、慰め始めた。
もう指ぐらいなら簡単に入るようになってしまっていた。だけどきゅうっと締め付けてしまい、指に内壁が絡み付いてくるのを自分でも感じる。
「んっ……うぁ……んぁっ、ん……」
平太に触られているのを想像すると、自然に上ずった声が出てしまって息が上がる。弄る指が止まらない。
『指、一本だけで足りるんですか?』
平太ならきっとそう言う。面白がるような、嗜虐的な調子で。
少し無理やり指を三本挿れると、ゾクンと震えが走って「あ、っあ」と女みたいな甘い嬌声が上がってしまった。頰が熱くなる。
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