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5気遣いの空回り
「はい、じゃあ今日の練習はこれで終わりにします。舞台祭まであと一週間なので、詰められるところは各自で時間を見つけて詰めてきてください。それと、体調は崩さないように。ありがとうございました」
高校二年生の学級委員長がそうまとめて劇練を終わらせた。
あと一週間とは言っても、明日は体育祭のリハーサル、明後日は舞台祭のリハーサル、そして土日を挟んでもう櫻祭なので、実質今日が最後の練習となる。舞台祭の前の日に準備ができるとは言っても、体育祭の設営の片付けや衣装小道具大道具の最終調整など、さまざまなやることがあるので、がっつりと練習はできない。
他のクラスは土日も練習にあてるそうだが、うちのクラスはどうやら完成度が高いらしく、練習は不要だと学級委員長たちの間で取り決められた。
二年四組の教室を出ながら、ふと窓の外を見ると、既に日は暮れていた。随分と長い間練習していたな、と俺は苦笑した。
隣を歩く真空さんは、昨夜のことを思い出しているのか、僅かに顔を赤くしながら俯いて歩いていた。
昇降口を出た辺りで、そろそろ頃合いかと思い、俺はわざとリュックの中を確認した。そして、少し焦った声色に聞こえるように、こう呟いた。
「うわ、スマホを教室に置いてきたかも」
真空さんが「探すなら俺も探そうか?」と尋ねてくる。その問いかけをまさに待っていたのだが、俺は顔に一切出さず、少し申し訳なさそうな笑顔を向けた。
「本当ですか? すみません、一緒に探すのお願いしてもいいですか?」
「分かった」と頷いてすぐに昇降口へと逆戻りする真空さん。
「あ、……明塚、俺もその……よければ探すの手伝うけど」
巴は少しどもりながらそう提案する。
スマホがないというのは真空さんと教室に戻る口実でしかない。だから、真剣に心配されても困るだけだ。
なので俺は苦笑交じりに首を振った。
「いいよ、大丈夫。それより巴は、今まで待っててくれた柳のとこに行ってやれ」
「えっ、倫太郎のところ? どこにいる?」
「ほら、そこの校門のとこ」
校門の前で所在なさげにスマホ片手に佇む柳を指差してやると、巴はぱあっと表情を明るくした。そして、その方向へ駆けて行った。
「りんたろーう! 遅くなるから帰ってもいいって言ったのに、待っててくれたの?」
「はあ? 別に待ってねえよ。……一回家に帰って、コンビニ行ったついでにちょっと寄ったら柚葉がいただけ」
「そうなの? 少し残念だな。……でも、倫太郎がいてくれて嬉しい。じゃあ帰ろっか」
「馬鹿、手なんて繋いだら暑いだろうが離せ!」
少し離れたこちらまで、そんな微笑ましい会話が聞こえてくる。
夏休み中の文化祭準備の時、俺が少し巴の背中を押してやったら、巴と柳はその後すぐに付き合い始めたのだという。後で巴にも、驚いたことに柳にも、それぞれ礼を言われた。
何にしろ、俺が関わった結果いい方向に転んで良かったと思う。俺が関わって、結果嫌な方向にこじれたことは数あれど、いい方向に転んだのは初めてかもしれない。だから、純粋に嬉しい。
「……平太?」
怪訝な顔で真空さんが俺を見る。
「戻りましょうか、真空さん」
俺がそう引き返すと、真空さんはその後を着いていった。
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