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1今日は晴天

 今日は晴天。  きらきらとした光を惜しげもなく地上に振りまく太陽は、正直あまり好きじゃなかった。それと、体育祭ということで何となくそわそわと浮き足立った雰囲気も、正直あまり好きじゃなかった。  昔からそうだ。賑やかな場所、賑やかな行事は好きじゃない。エネルギーを消費するからと、無意識のうちに避けてしまっているのかもしれない。  だけどぶすっとしていれば空気を悪くして悪目立ちしてしまう。だから特に楽しくもないのに何となく合わせて、心のうちではさっさと終わるのを願っていた。  俺は太陽を見上げながらそんな、中学では面倒でしかなかった体育祭の記憶をふと思い出していた。  はたから見ればそれなりに充実はしていたと思う。というよりむしろ、多くの人が羨むような青春を送ったに違いない。俺自身は楽しいと思わなかったが。  今年は違う。  もちろん今年だって体育祭という行事自体はかなりだるい。競技は極力出なくて済むように調整した。おかげで俺の出番は、全員強制参加の学年種目とリレーだけだ。  でも、今年の体育祭は楽しみだった。理由は一つ、真空さんがいるからだ。  常日頃から真空さんの運動神経の高さについての噂は聞いていた。普段一緒に過ごしていて運動神経の高さを垣間見ることもあった。  だけど、実際に真空さんが運動している様子を見たことは、実はまだ一回もない。学年が違うから、当たり前と言ったら当たり前かもしれないが。だから、密かにそれを見ることを楽しみにしていた。 「――だから、お前珍しく浮かれてんのか」  生徒席に座りながら、納得したように渉は頷く。 「まあ、な。かっこいい真空さんも見てみたいなって」 「そういう理由なら安心した。お前が学校行事を楽しみにするとか気持ち悪いもんな」  あまりに散々な言われようだ。事実ではあるが。 「本当はさ、真空さんに援団もやって欲しかったんだよなあ。お前が着てるその学ラン、絶対真空さん似合ったぜ。何で真空さんじゃなくてお前が援団な訳?」  応援団に入ったので応援団の衣装である学ランを着ている渉を見ながら、俺はため息を吐いた。コートのような形状の学ランで、どう見ても暑そうだったが、意外と通気性がよく生地が薄いため涼しいらしい。  渉は「俺で悪かったな」と少し口を尖らせた。 「あーあ、真空さんの学ラン姿見たかったなぁ。お前の学ラン姿とか見ても嬉しかねえよ」 「うっせーな、お前何でそんなに俺を貶すのが好きなの? ちょっとぐらいは褒めてくれよ」  そう軽口を叩きつつ俺と渉は笑った。こちらは貶しているつもりは微塵もないし、向こうもきっと褒めてもらいたいなんて微塵も思っていない。  だけどあえて困らせてやろうと思い、俺はにやっと笑った。 「まあでも似合ってるとは思うぜ? 俺は別に得しねえけど、お前顔悪くないってかむしろかなりいい方だしな。体つきもいいし。これで応援合戦きっちりこなしたらモテるかもな、渉」  渉は俺が褒め出した途端に顔を引きつらせた。そして苦々しげに吐いた。 「うっわ……平太が俺のこと褒めるとか怖すぎ。やめろよこの後大雨とか降り出したらお前のせいだからな」 「お前さ、何なの? 俺が褒めちゃ駄目な訳? 俺の正直な意見なんだけど。でも渉、なーんか残念なんだよな。……ヘタレだからか?」 「なあそれ地味に傷つくんだけど。いやにリアルだから」  不平を口にしつつもほっとしたような表情の渉。そんなに俺に褒められることが不安なのか。 「なあ、真空さんって噂通り運動神経すごい?」  中等部の生徒の短距離走が始まったが、特に興味もないので見ずに渉にそう問いかけた。渉は食い気味に頷いた。 「ああ、マジやべー。去年は選抜リレーで鮮やかに勝ちをもぎ取ってたし。あの時は先輩が漫画から飛び出してきたキャラだって言われても信じられた自信があるね」 「……そんなに?」 「まあまあ、わざわざ聞かなくても見てればそのうち分かるぜ」  なぜか得意げな表情の渉。  その後の競技で俺は、嫌というほど真空さんの運動神経の高さを思い知らされたのだった。

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