185 / 373

2今日は晴天

 いくつか競技は進み、ようやく真空さんの最初の出番――高等部の短距離走になった。人数が多いせいだろうか、短距離走や長距離走などは学年ごとではなく中等部と高等部で分けて一気にやってしまうらしい。  いよいよやってきました高等部の短距離走、と放送部の生徒が盛り上げにかかる。それにつられてか生徒席はわっと沸いた。 「ほら、平太お待ちかねの先輩だぜ。前園先輩は短距離走の一番最後に走るはず。大トリだし」 「……大トリ?」  よく分からないことを言う渉に首を傾げるが、「まあ黙って見てろよ」と渉は煙に巻く。  渉が短距離走のアナウンスを放送部がしている最中、いそいそと準備を始めていたので周りを見ると、他のクラスの応援団も準備を始めていた。  今までは生徒席の前に立って声援を送っていただけだったのに、渉は応援旗やら何やらを取り出し始めた。そして他の学年の四組の応援団と集まり出した。  大変そうだな、と俺はそれを他人事のように眺めた。応援団はずっと応援をしているため競技に出られないという話を聞いて一瞬心が揺れたのは事実だが、ここまで大変だとむしろ強制参加の競技だけ出ていた方がずっと楽そうだ。  運動神経はそこまで良くないけど、かっこいい姿を見せたかったから応援団に入った――そう渉は言っていた。誰にかっこいい姿を見せたかったのか、なんて野暮なことは聞かなかった。  短距離走は進んでいったが、大げさな準備をした割には応援は今までとそう変わりがない。疑問に思っていたが、最終レースの時にその疑問は氷解した。 「さあ! 待ちに待った最終レースです!」  放送部の生徒がそう宣言すると、突然二組の方から大声が聞こえた。 「学園一の女たらし! 他校の女子と付き合いまくり! バレンタインは登校中に渡されるチョコで鞄がいっぱい! 学園中から嫉妬の嵐、だけどイケメンだから全部オッケー! そんなチャラ男は誰だーっ?」  ぎょっとしてそっちを見ると、応援団の生徒がそれを叫んだようだった。すると今度は、第一レーンの生徒が「俺だーっ!」と叫んだ。 「第一レーンはバスケ部主将、三年二組、芹澤果南! 昨日彼女に振られたので彼女いない歴は六時間! 絶賛彼女募集中だそうです」 「な、何でそれ知ってんだよ!」  放送部の生徒がそう解説するように言うと、彼が本気で焦った様子を見せた。それで、生徒席がどっと沸いた。  不意に渉が俺の方を振り向いて、俺の顔を見ると、やっぱりな、と言いたげな苦笑いを浮かべた。恐らく俺は、呆気にとられた顔をしていたのだろう。 「なあ、これってもしかして毎年恒例?」  渉に聞くと「そう。ビビったろ?」と頷いた。  渉が言っていた大トリとはこういう意味か、と納得する。行事が盛んという話は聞いていたが、これは確かに盛んだ。  そんな調子で選手紹介が進んでいった。最終レースを走るのは、バスケ部主将、バレー部エース、サッカー部キャプテン、陸上部部長などといったいかにも足が速そうなメンツだった。  そして最後、渉が息を吸い込んで、 「学園最強の男といったら彼しかいない! 成績はトップクラス、運動神経は抜群、そして何よりイケメン! だけど笑顔はなかなか見られない! そんなクールな完璧超人は誰だーっ?」 「俺だ」  さして大声を出す風でもなかったのに響く声で、表情を変えずに静かに答える真空さん。それだけで、周りから歓声がわっと上がる。  確かに、何事にも動じない超然とした感じでスタートラインに立つ真空さんはかっこいい。やけにサマになっている。 「第六レーンは言わずと知れた、二年四組、前園真空! いつ見ても大抵無表情でそこもまたシビれる! だけど恋人の前では人が変わったようにデレるそうです」  放送部がそう煽ったせいで、多くの生徒の視線が一気に俺に集まった。居心地が悪くなる。 「さて、走者の紹介が全て終わりました! それでは最終レース、スタートです!」

ともだちにシェアしよう!