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6今日は晴天
その先を見ると、そこには息を切らせた真空さんがいた。
「待ってくれ……平太」
「どうしたんですか、そんなに息を切らせて」
聞くと、真空さんは荒い息を落ち付けようともせず焦ったように言った。
「お題を、引くのに、手間取って……平太、俺と……来てほしい」
「お題は何なんですか?」
すると真空さんは口ごもり、顔を赤くしてから小さく呟いた。
「……好きな人」
周りに誰もいなかったらすぐに抱き締めていただろう。それくらい可愛かった。真空さんは短距離走では息一つ切らせなかったのに、借り物競走では俺のために息を切らせて走ってきてくれた。これが可愛くなくて何なのだろう。
何とか抱き締めたい衝動をやり過ごしてからふと、少し意地悪な気持ちが湧いた。きっと滝瀬は、俺と真空さんが一緒にゴールしたいから、と丁寧に断れば納得して引いてくれるだろう。だけどわざと、そのことを取り上げて真空さんの言葉を断ってみようと思った。
「その気持ちは嬉しいんですけど、もう滝瀬と一緒にゴールすることになってるので。何でも、滝瀬のお題が憧れの先輩で、それが俺らしくて」
「え! あの、僕別に……」
気を遣って滝瀬から断ろうとしていたので、俺はこっそりと「内緒」と言うように人差し指を口に当てた。滝瀬は何度か瞬きを繰り返して、黙った。
真空さんは「えっ……」と狼狽えた様子を見せ、その後慌てたように言い募った。
「そ、そうか……でも、俺は、平太以外に好きな人はいないし……その、俺以外が平太とゴールしているのを、見たくないし……」
言うのが恥ずかしいのか、言葉が尻すぼみになって消えた。
「それで?」
わざとらしく促すと、真空さんは俯いて言葉を重ねようとした。
いじらしい真空さんを見て俺はつい、真空さんの顎を掴んで無理やりこちらを向かせて「誰がいつ目を逸らしていいって言いました?」と言ってしまった。してしまってから、引きつった渉の顔を見、後悔して、慌てて手を離した。
真空さんは真っ赤な顔で「ごしゅ……」と『いつも』のように言いかけてから、はっとしたように口を押さえた。色々と知っている渉は、呆れ果てたようにため息を吐いた。
真空さんは咳払いをして、何とかいつもの無表情に戻って、滝瀬に頭を下げた。
「滝瀬、すまないが、身を引いて俺に平太を借りさせてくれないか」
滝瀬は「も、もちろんです!」と勢いよく頷いて、どこかへ走り去っていった。恐らく、別のアテがあったのだろう。
「それで、俺はどうすればいいんですか?」
真空さんはそれを聞いて、恥ずかしがるように紙を差し出した。
「ええと……『好きな人をお姫様抱っこするか好きな人にお姫様抱っこしてもらう』?」
真空さんは無言でこくりと頷いた。
「いいですよ、俺がします」と言いながら俺は、真空さんの言葉を聞かずにさっさと抱き上げた。
「わ、わぁ! 平太、ちょっと、いきなり……!」
「いきなりじゃないですよね? それに、いつもしてることに比べたらお姫様抱っこくらい、構わないじゃないですか」
あたふたとし出した真空さんに、そう微笑むと、真空さんは一気に顔を赤くした。
「ゴールあっちですよね? 今の会話でかなり時間消費しちゃったので、走りますよ。ちゃんと掴まってください」そして俺は、恥ずかしいのか顔を覆うように隠していた真空さんに、こう言った。「顔隠さないで、ほら、首に掴まって」
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