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8今日は晴天

「選抜リレー……ねぇ」  最後の競技である選抜リレーが始まる、という放送部のアナウンスを聞いて、俺は思わず呟いた。  渉はそれを聞いて「選抜リレーがどうかした?」と尋ねた。何か含みのある声にでも聞こえたのだろうか。 「いや、中学の頃走ってたなぁって。外側から見るの初めてだから、新鮮で」 「マジで? お前が選抜リレー? 断わんなかったのかよ」  信じられなそうに聞く渉に、俺は「キャラ的に断れなくて」と苦笑した。 「あー……お前かなり演技してたもんな、夏休み、海で中学のやつと会った時」 「まあな。正直ドン引きしたろ?」 「ああ。何だこいつ胡散くせえ笑顔浮かべやがって、って思った」  こういう時変に取り繕わないのは渉のいいところだ。だからこちらも、気楽に話せる。 「だろうな。自分でも胡散くせえと思ったし」  それを聞いて渉がけらけら笑う。渉のこういうさっぱりしたところは気楽で好きだ。 「盛り上がるだろ、選抜リレーも」  聞くと渉は、当たり前、と頷いた。 「お前そんな好きじゃないだろ、こういう集団で騒ぐの」  まあそうなんだけど、と頷いてから、俺は笑った。 「猫被んなくて済むし、やるより見てる方が圧倒的に多いし、今年の体育祭は割と楽しいぜ。何より、真空さんもいるしな」 「おーおー、恋のチカラは偉大だねぇ」と茶化すように渉が言うもんだから、俺もあえてにやっと笑って首肯した。 「……やばくね? 四組」  リレーを見ながらふと呟くと、必死に応援をしていた渉が不意に振り向いて、「これからだから」とだけ言って、また応援に戻った。  これからだから、と言われても、残る走者は三人という状況で、現在四組は五番目だった。どう考えても一番は厳しいし、二番や三番も難しいだろう。ここからどうやって巻き返すというのか。  そう思っていたが、その予想はあっさり覆された。  他のクラスより少し遅れてアンカーの一つ前の生徒にバトンが渡された途端、その生徒が一気にスピードを上げてあっさりと四番目の生徒を追い越した。  一体誰が、と俺は目を凝らして見た。そして、目を疑った。俺と同じようなことを他の生徒も思ったようで、四組の――それも主に一年四組の生徒がざわついた。  確かに、うちのクラスはなかなか選抜リレーに出る人が決まらなかった。だから、学級委員長の巴が「俺が足の速い人に勝手に声をかけておくよ」と言っていたので、考えられないことではなかった。  だがそれにしても、だ。 「倫太郎ー! 頑張れーっ!」  巴が嬉々として声援を送る。――一年四組の巴以外の生徒は誰も、柳がこんなに足が速いなんて思ってもみなかった。  信じられなそうに皆は目を見合わせたが、やがて、巴につられたように柳に声援を送り出した。俺もつられて柳に声援を送った。 「柳すげえよ! そのままもう一人抜かせー!」 「行け柳ー!」 「柳ファイトー!」  柳はその勢いのまま三番目の生徒も追い抜かし、アンカーの真空さんにバトンを渡した。真空さんはバトンを渡されると、どんどん二番目の生徒に近付いていって、すぐに抜かした。  柳にバトンが行くまでは五番目で、諦めムードが少し漂っていた四組だったが、「このまま一位もいけるんじゃないか」という考えが浮かんできたようで、声援は一気に大きくなった。応援団の応援も、俄然やる気が入っているように見えた。  ――残るはあと一人、それを抜かせば一位だ。

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