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8才能の使い道
「そう……ですけど、何か」
平太が一度俺と顔を合わせると、不審そうに頷いた。すると彼は、みるみるうちに顔を明るくして、名刺入れから名刺を取り出すと、それを平太に差し出しながら意気込んで言った。
「ああよかった! 僕はこういう者なんですが、君……芸能界に興味はないですか?」
「……スカイ、プロモーション……?」
一緒になって名刺を覗き込むと、彼は芸能事務所のスカウトマンのようだった。
「特に芸能界に興味はないので、結構です」
考える余地も見せず、きっぱりと断る平太。確かに、いきなりこんなことを言われても信用はできないし、平太は目立ってナンボの職業に興味はないだろう。
彼はいきなり断られるとは思っていなかったのか、慌てて説明してきた。
「と、とりあえず話だけでも! ……うちは、中野川アンリや金子圭太などが所属している事務所で、決して怪しい事務所ではありません。もちろん、そちらからレッスン代や撮影代として、不当にお金を請求することもありません。君と同じ高校生で言うと、佐々岡葵がうちに所属していて学業と両立しているので、その点の心配は大丈夫です」
彼が挙げた名前はどれも有名なもので、そんなにテレビを見ない俺でも知っているものばかりだった。
「うちには数多くの有名な俳優が所属していて、俳優業に特に力を入れているので、君にはぴったりな事務所だと思いますよ。売り出すノウハウもバッチリなので、君の才能を思う存分発揮させるお手伝いもできます」
熱弁する彼に押されたのか、平太は弱り切った顔だった。いつの間にか撮影が止まってしまっていて、皆が平太と彼の問答に注目していた。
「自分に発揮するほどの才能はないと思うんですが……」
するとそれを待っていたかのように彼は口を挟んだ。
「そんなことありません! 君の芝居の才能は素晴らしいです! 潰すのはあまりにももったいない! ……僕は毎年、この学園の舞台祭を見に来ているんです。この学園出身の俳優とタレントが一人ずついるのをご存知ですか? 彼らはどちらも僕がスカウトしました。この学園にはまだダイヤの原石が眠っている、そう思って毎年来ていましたが、正解でした」
そして少し息をついて、続けた。
「君は経験者ですか? ……違う、ならなおさらこの才能を殺すのはもったいない! 君の演技は人を惹きつけるものがある上に、君は人目を引く綺麗な顔立ちをしている、これほどのダイヤの原石に出会えたのは初めてです! 君なら間違いなく人気俳優になれる、それは僕が保証します!」
平太の顔は弱り切った顔から一転、愛想のいい柔らかい笑顔になっていた。これは間違いなく、面倒だから早く話を終わらせたいと思っている顔だ。
「すみません、先ほども申し上げたんですが、自分は特に芸能界に興味がないので。申し訳ありません」
そう愛想よく断ろうとした平太を遮って、彼はなおも続けた。
「今決めろとは申し上げません。この名刺を持ち帰って、親御さんと話し合って、それから決めても――」
「自分に親はいません」
そうきっぱりと平太が告げると、気圧されたように彼は黙り込んだ。
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