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1王子様と執事

「明塚……頼むよ、明塚がこれを着てくれなきゃ、俺たちの出し物は始まらないんだって」  弱り切った顔で巴がそれを差し出してくる。それは分かっているが、どうにも抵抗感がある。   巴が差し出してきたものは、白と青を基調にした王子の衣装。安っぽい生地ではなく意外にもしっかりした生地で、細かい部分の装飾までちゃんとしていて、王子らしく真っ白のズボンにブーツ、白手袋まである煌びやかな衣装だ。  白馬の王子様もかくやという衣装で、どんなやつが着ても目を惹くこと間違いなしだ。これを着るのはさすがに恥ずかしい。 「ほら着ろよ平……いや、未来のイケメン俳優様?」  言いかけ、途中で言葉を変えてにやっと笑う渉。様子を伺っていたクラスメイトがどっと沸く。渉の肩にかけた手が面白がる気満々なのもタチが悪い。 「っざけんなよ……何でその話をお前まで知ってんだよ……その場で即断って誰にも言ってないっつーのに……」 「いやー、もう誰もが知ってんじゃね? 学校行事でスカウトされるなんて滅多にねーことじゃん。よかったなー平太、売れっ子になったら俺に高い寿司でも奢ってくれよ」 「だからならねえって!」  しばらくは渉にこのネタでいじられそうだ。最悪だ。  俺は一つため息を吐いて、巴から衣装を受け取った。 「仕方ねえから着てくる。……てかこの衣装、どこで買ったんだよ?」 「いや、縫った」 「は? 縫った? お前が?」  巴の言葉に俺は目を剥いた。どう見ても手作りには見えないクオリティだ。市販品に見える。  一体誰が縫ったというのだろう。まさか巴だろうか。 「俺じゃなくて、加賀美が」 「はぁ!? おまっ……お前……うわぁマジかよ、渉にこんな才能あるなんて……嘘だろ?」  あまりにも斜め上をいっていて、信じられなくて俺はつい声を裏返してしまった。 「嘘じゃねーよ。まあ、父親がデザイナーだし、姉ちゃんは趣味でコスプレやってるから自分で衣装作ってて、よくそれ手伝わされてるし、これぐらいは。……つーかさ、ハムレットのメインキャストの衣装も俺がデザインして縫ったんだけど、お前それも知らなかった訳?」 「嘘だろ? 渉があれを!? 絶対買ってきたやつだと……お前、嘘つくの上手いな」 「嘘じゃねーよ! 信じろよ! 何なら今度デザイン画でも見せてやろうか?」 「興味ない」 「だろうな」  俺が即答えると、渉も予想していたように頷いてあっさりと引き下がった。  言われてみれば、渉と遊びに行く時に渉が着ていた服は、確かにハイセンスだった気がする。興味がなかったのであまり覚えていないが。  父親がデザイナー、姉がコスプレイヤーということも知らなかった。他人の家族構成なんて興味がないし自分の家族構成を突っ込まれたら困るので、聞いたことがなかった。 「お前さ、デザイナーとかなれば? これデザインして作れるのってすげえ才能だと思うぜ?」 「いやそんなことねーよ」  そう口先では否定しつつも、満更でもなさそうだ。分かりやすい。 「じゃ、俺は未来のデザイナー様が作ってくれたありがたーい衣装着てくるわ」  そうわざとらしく言うと、渉に「さっきの仕返しかよ」と舌打ちをされた。

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