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3王子様と執事
「――ありがとう、君たちのような素敵な男性と可憐な女性に出会えてよかったよ」
四組の出し物に参加している人が何人も一気に話しかけてきて、それをひとまず全て捌き終わって、ほっとしながら俺はそう微笑んで踵を返した。
正直、どうして俺がこんなアイドルのようなことをしなきゃいけないのか、とうんざりしているが、今日が文化祭最終日。あとちょっと頑張れば終わりだと自分を励ました。
きゃあっと色めき立つ女の人にも、ざわめく男の人にも、正直うんざりだ。かっこいいかっこいいと言われるが、こんな衣装を着ていては大抵はかっこよく見えるだろう。
それに、真空さん以外にかっこいいと言われても大して嬉しくない。
「へーいたっ」
ため息をつきかけると、不意に肩に手をかけられた。何だと思って見ると、にやにやと笑う茶髪の男がいた。――彼は飯塚佑太郎。俺の、夏休みに海で会った中学の友達の一人で、今は中学からほど近い不良高に通っているのだそう。
後ろを見ると、中学の友達がもう二人いた。
「お前ら、どうしたんだよ」
「お前こそどうしたんだよー、何だ今の、アイドルか? あぁ?」
面白がるように佑太郎に小突かれた。面倒くさいやつに絡まれたなと思いつつ「ちっげえよ」と笑いながらやんわりとその手を制した。
「うちのクラスこういう出し物なの。一年四組、まだ行ってねえ?」
「行ってないな。なに、かっこいい平太くんを皆にアピールしましょうっていう出し物?」
あながち冗談でもなさそうに言う金髪の男は、城之内賢。派手なナリをしているが頭が良く、櫻宮学園のすぐ近くにあるトップクラスの偏差値である英照高校に行っている。
「んな訳あるか。人探しだよ。んで、俺が探される側。……愛菜と優香はいねえの?」
「ああ、二人はそれぞれ彼氏の文化祭行ってる」
何気なく答える賢に、俺は「あっそ」と苦笑した。――海で会った後、すぐ連絡してきて「男の先輩なんかより自分の方がいいから付き合え」と言ってきたのは全くの別人だったのかと思うほどの切り替えの早さだ。
「ちなみに、佑太郎も今は彼女持ち」
イェーイ、とピースサインをする佑太郎を見て、俺は思わず苦笑を濃くした。――こいつも海で会った後、「同じ男なら俺と付き合う方が得だぜ?」とか何とか言いながら俺を押し倒してきたはずだが、切り替えが早すぎて笑うしかない。
「賢は? お前も?」と問うと、賢は「いーや、俺はお前一筋だよ?」と肩をすくめた。
俺は「やっぱ? ありがとな」と冗談めかして笑ったが、こいつのこれは全くの冗談でないことをよく知っている。
賢は海で会った数日後、兄貴に通してもらったのか何なのか、気付いたら勝手に家の中にいて、どうやって真空さんと付き合い始めたのか根掘り葉掘り聞いてきた。それから自分の想いを勝手につらつらと語り始めたのだ。
何とか追い返したが、その後何度も賢から連絡が来て、怖くなったのでこっそりLINEをブロックした。
「それはそうと平太、俺のことブロックしてない? ずっと聞こうと思ってたんだけど」
心を読まれたかのようなタイミングで言われ、過剰に反応しそうになるのを必死に堪え、平然を装った。
「してねえよ。何でお前をブロックしなきゃならないんだよ」
「ほら、前にお前の家行った時、あの後から返信返ってこないから。さすがに引かれたかなあと思ってさ」
とは言いつつも微塵も不安げではない賢。頭がいいせいだろうか、賢がいつも何を考えているのかは、正直中学の頃からよく分からなかった。
内心首を傾げつつ、俺は平素を装って答えた。
「色々忙しくってさ、賢だけじゃなくて他のやつからの連絡もほとんど返してなくて」
「ああ確かに。お前、学校の行事の劇で結構いい役やってたよね。レアティーズだっけ。あと、また芸能プロダクションにスカウトされたんだってね」
さすがに驚いた。中学の友達には誰一人として舞台祭でレアティーズの役をやることは言っていないし、スカウトされたことも言っていない。
「何で知ってんだよ、それ」
「そりゃ、俺はお前のことなら何でも知ってるし」
俺が顔を引きつらせたのを見て賢は「ふはっ」とふきだした。
「冗談だよ。俺さ、櫻宮学園に友達いるんだよね。それでそいつにたまたま平太の話聞いただけ」
思わず胸を撫で下ろした。――こいつは笑えない冗談をよく言うきらいがある。俺がそれを聞いて顔を引きつらせると、面白そうに笑うのだ。賢のこの癖はどうにも苦手だ。
この分なら、家に来た時の態度も、賢なりのジョークのつもりだったのかもしれない。帰ったらとりあえず、ブロックを解除することを決めた。
「……アカ? やけに静かだな、どうしたんだよ」
もう一人の友達――赤原紅輝は、俺の問いかけに曖昧な返事を返した。
「いや、その……腹痛くて」
「うっは、マジかお前! さっきアイス食ったのが悪りぃんじゃね?」
「お前すぐ腹下すよね」
アカの言葉に、佑太郎が笑い賢が冷静に呟いた。
「大丈夫かよ、トイレどこにあるか教えてやろうか?」
アカはその言葉に頷いてから「やっぱ平太は優しい……お前らと違う……」とぼやいた。
「はぁー? 俺らだって優しいぜ、なあ賢!」
「ああ。アカに優しくないだけで俺らは優しいよ」
「やっぱ優しくねえじゃん……」
アカのツッコミにもキレがない。洒落にならないほど腹が痛いのかもしれない。
「んじゃーアカ! 俺ら勝手に校内回ってっから、済んだら電話しろよ? よっしゃ賢、次は二年六組から二年の教室回ってこうぜー!」
「オッケー。アカ、ちゃんと腹痛治してきな」
にっと笑って佑太郎は踵を返し、賢はどうしてか、少し含みのある笑顔でアカを見、それから佑太郎の後を追った。
「トイレだよな、この階にあるトイレは、この廊下を――」
案内しようとすると、不意に手を掴まれた。驚いてアカを見ると、アカは首を振って、小さく呟いた。
「腹痛いって嘘なんだ、本当は……平太に、話があって」
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